第24話 サポートプラッシー 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「ふぅ……今日も一日頑張ったなぁ……」
夕暮れ時、一人の男性が疲れた様子で自宅へ向けてゆっくりと歩いていた。
「仕事は大変だけど、やりがいはあるし、職場の同僚達とも仲は悪くない。ただ……帰ってからの生活を支えてくれる相手がいないのはやっぱり寂しいな。
これまで女っ気のない人生だったから、彼女がいた事もないし、周りの奴らもどんどん結婚したり彼女を作ったりしてるし……あーあ、俺も帰ったらおかえりなさいとかお疲れ様ですって言ってくれるような相手が欲しいもんだなぁ……」
男性が羨ましそうな様子で呟いていたその時だった。
「そこのお兄さん、少し良いですか?」
「え……?」
男性が振り向くと、そこにはにこにこと笑うセーラー服姿の少女とあどけない笑みを浮かべる紫色のパーカーに純白のスカートといった格好の少女が立っており、声をかけてきたのが年下の少女達だと気づくと、男性は少し安心した様子を見せてから少女達へ話しかけた。
「えっと……君達は誰だい?」
「私達は人間と道具の橋渡し役とその助手です。ところで、お兄さん。何か悩んでいたようですけど、何かあったんですか?」
「え……まあ、ちょっとね。恥ずかしい限りだが、これまで女っ気のない人生だった分、女性と付き合った経験がなくて、その上独り暮らしだから、家に帰ってもおかえりなさいやお疲れ様を言ってくれる人がいないのがなんだか寂しくてさ」
「そうなんですね……お姉ちゃん、何か良い道具って今日は連れてきてましたか?」
「そうだね……うん、君の出番だよね」
そう言いながら『繋ぎ手』が肩に掛けていたカバンから取り出したのは、小型の茶色の熊のぬいぐるみだった。
「熊のぬいぐるみ……? 生憎、ぬいぐるみを飾るような趣味はないんだが……」
「ふふっ、この子は飾っておくだけの子じゃないですよ。この子は『サポートプラッシー』という名前で、何かやってもらいたい事があったら、それをこの子に言っておくと、その言葉通りの事をしてくれる働き者なんです」
「つまり……帰ってきた時におかえりなさいやお疲れ様ですって言ってくれるように頼んだら、俺が帰ってきた時に本当に言ってくれるって事か?」
「そういう事です。因みに、この子は燃えたり生地が破れたりもしませんし、体が汚れたら自分から洗濯機に入って洗うので、料理や掃除といった家事もお手の物なので、生活を色々とサポートしてくれますよ」
「それはすごいな……」
「そして、この子はお兄さんにプレゼントします。大切にしてあげてくださいね」
「え……い、良いよ。たしかに便利そうだけど、タダで貰うのは申し訳ないって……」
男性は首を横に振ったが、『繋ぎ手』はそれに対してにこりと笑う。
「大丈夫ですよ。この子は店頭に並べられなかったり試作品という事で渡しても良いって言われたりしてる子の一つなので遠慮なくもらっちゃって下さい」
「そ、そういう事なら……どうもありがとう」
「いえいえ。ただ、その子には注意点があるので、それは守ってくださいね?」
「注意点……こんなに危険じゃなさそうなのにかい?」
「はい。色々とお願いするのは良いんですが、誰かを傷つけさせようとするのは止めてください。そうじゃないと、本当に大変な事になりますから」
「傷つけさせる……わかった。俺も誰かを傷つけたいとは思ってないからそれをさせないようにするよ」
男性の言葉に『繋ぎ手』は嬉しそうに笑いながら頷く。
「ありがとうございます。それじゃあ私達はこれで失礼します。その子、大事にしてあげて下さいね」
「お兄さん、また会いましょうね」
「あ、ああ……」
『繋ぎ手』達が楽しそうに話しながら去っていくと、男性はそれを見送ってから腕の中にある『サポートプラッシー』に視線を向けた。
「……生活をサポートしてくれるぬいぐるみか。俺みたいな男がぬいぐるみを持ってるのはなんだか恥ずかしい気がするけど、とりあえず家に帰ってからどんな物か試してみよう」
そう独り言ちた後、男性は『サポートプラッシー』をしっかりと腕に抱き抱えながら再び自宅へ向けて歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。