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不可思議道具店  作者: 伊達幸綱
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第23話 アンサーミラー 後編

どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。

「……よし、それじゃあ出発しよう」


 雲一つ無い快晴の空の下、少女は決意を固めたような表情で独り言ちる。その背中には小さなリュックサックが、そして手には鏡面にニコニコと笑う少女が映った『アンサーミラー』があり、少女は『アンサーミラー』を顔の前まで持ってくると、鏡面に映る少女に話しかけた。


「それで、鏡さん。これからどうやって本当のお父さんに会いに行けば良いかな? 何か手がかりが無いと、見つかる気がしないんだけど……」

『そうだね……貴女の本当のお父さんはお母さんから追い出された後、とある人に拾われてその人の会社で変わった仕事をしていたようだけど、少し前に配置替えで事務員兼秘書になったみたいだよ』

「変わった仕事……?」

『うん、それがね殺し屋。それで、私の同僚である道具がそれを手伝ってたんだけど、その道具の特性が原因で貴女の本当のお父さんが大変な事になりそうだったから、雇い主が機転を利かせてどうにかそれを阻止。道具自体もメッセージをもらった『繋ぎ手』が回収して、その後は『繋ぎ手』が管理してるみたい』

「そうだったんだ……でも、殺し屋の人の会社なんてどうすれば見つかるんだろう……」

『うーん……街を歩いていたら何か起こりそうな気がするから、まずは街の中へ行ってみようか。でも、疲れた時にはちゃんと言ってね?』

「うん、わかった。それじゃあ行こっか、鏡さん」


 その言葉に鏡面の少女が頷くと、少女は時折『アンサーミラー』を見て鏡面の少女と話しながらゆっくりと歩き始めた。それから十数分後、人通りの多い辺りまで来ると、少女は物珍しそうに辺りを見回した。


「うわぁ……人、多いなぁ……」

『こういうところに来た事はないの?』

「うん、全然。そもそもお母さん達と一緒に出掛けた事すら全然無いかも」

『そっかぁ……それなら、色々気を付けながら歩いた方が良いかもね。世の中には可愛い女の子を拐っていけない事をしようとする人もいるからね』

「いけない事って……今のお父さんが私にしたがってる事?」

『それもあるけど、拐った後にお金儲けに利用しようとする人や自分の好きなようにするために閉じ込めようとする人もいるから、そこは気を付けようね』

「うん、わかっ──」


 その時、後方から一人の男性が少女へと近づき、少女が気づく間もなくその手を掴むと、それに対して少女が驚きと恐怖が入り交じった表情を浮かべるのを見ながら荒い息遣いで気色の悪い笑みを浮かべた。


「へ、へへ……こ、こんなところにいたのか。こ、困ったい、妹だな……!」

「あ、あの……手、放して下さい……」

「な、なんで放さないとい、いけないんだ……? お前は俺のい、妹なんだから……一緒に家に帰るべ、べきなんだ……!」

「ち、違います! 人違いですから、放して下さい……!」

「お、大声をだ、出すなって……!」

「だ、誰か……助けて……!」


 少女の目に涙が浮かび、鏡面の少女の目の奥に怒りの炎が燃え始めたその時、不審な男性の肩にポンと手が置かれ、それに対して男性が振り向くと、そこには眉間に刀傷のある紫色のスーツ姿の大柄な男性と人の良さそうな雰囲気を醸し出している黒色のスーツ姿の男性の姿があった。


「な、なんだよ……あ、あんた達……!」

「……うるせぇよ、ぼんくら。そこの嬢ちゃんが嫌がってんのに手を離さねぇってのはどういう了見だ?」

「い、嫌がってなんかな、ない……! い、妹は我が儘なだ、だけだ……!」

「ほう……妹、か。なら、その嬢ちゃんの名前、間違わずに答えられるよな?」

「う……そ、それは……」

「答えられるのか答えられねぇのかどっちなんだ? ああ!? 気色わりぃ話し方してねぇでどうなのか言ってみろってんだよ!」

「ひ、ひぃっ! こ、殺されるー!!」


 不審な男性は少女から手を離すと、情けない声を上げながらその場を走り去っていき、周囲がざわつく中、その様子を見ながら紫色のスーツ姿の男性は呆れたようにため息をつく。


「……ったく、誰がてめぇなんかを殺るかってんだ。ちっと気分転換に出てきたらとんだ目に遭ったぜ」

「ははっ、ですね、ボス。お嬢ちゃん、大丈夫だったかい?」

「は、はい……ありがとうございました……」

「どういたしまして」

「あ、あの……おじさん達は誰かを殺すような人達なんですか?」

「うーん……まあ、そうではあるかな。と言っても、俺は前まではそうだっただけで、今は事務員をしながらボスの秘書をしているけどね」

「前までは殺し屋で今は事務員をしながら秘書……」


 秘書の男性の言葉を少女が繰り返していた時、ボスは少女の手の中にある『アンサーミラー』に視線を向けると、少し警戒したように自分を見る鏡面の少女の姿に眉を潜めた。


「……その手鏡、なんだか気になるな。嬢ちゃん、その手鏡をどこで手に入れた?」

「え……不思議なお姉ちゃん達がくれたんです。あ、あの……おじさん達、ちょっと訊きたいんですけど、前まで不思議な道具って持ってました?」

「持ってたけど……え、それじゃあその手鏡も!?」

「……はあ、どうやらそうみてぇだな。だが、安心しな。『リモートガン』と違ってそいつからは危険な感じはしねぇよ」

「それなら良かった……」


 秘書の男性がホッと胸を撫で下ろしていたその時、少女が秘書の男性に突然抱きつき、その事に秘書の男性が驚く中、少女は嬉しそうに笑いながらぽろぽろと涙を流す。


「あ、会えた……本当のお父さんにようやく会えた……!」

「お、お父さん!?」

「……はあ、また面倒な事に巻き込まれたみてぇだな。おい、何か心当たりはねぇのか?」

「心当たり……強いて言うなら、離婚した頃、アイツが身籠っていたくらいですけど……」

「あー……完全にそれだな。そして、こうしてお前に会いに来たって事は、今の両親が嬢ちゃんにとって良くねぇ奴らって事だ。おい、そういう事で良いんだよな? 手鏡の嬢ちゃん」


 ボスの問いかけに鏡面の少女は静かに頷く。


『……うん。だから、私はこの子の持ち物になったの。母親もだいぶ酷いけど、父親なんてこの子を性的な目で見てるから』

「この子をって……ソイツ、本当に最低な奴じゃないか!」

「まったくだ。さて……そういう事ならさっさとその件を済ませるぞ。嬢ちゃんがお前の実娘だっていうなら、早めにクズな両親から引き離してお前が世話をするように取り計らった方が良いからな」

「すみません、ボス……」

「謝らなくていい。俺もお前の元妻には痛い目に遭ってもらわねぇといけないと思ってたんだ。仕事の関係で知り合った警察関係者や弁護士、探偵に記者、全員の力を結集して何とかしてやるよ」

「ボス、ありがとうございます」

「おじさん、ありがとうございます」

『ありがとう、おじさん』

「礼には及ばねぇよ。ほら、これ以上ここにいるわけにもいかねぇからさっさと行くぞ」


 ボスの言葉に秘書の男性達が頷き、話をしながら歩き始める中、その様子を『繋ぎ手』と助手の少年が密かに見守っていた。


「……まさか『リモートガン』のおじさんの娘さんだったなんてね。この前もそうだけど、やっぱり道具と縁がある人同士も縁があるんだなぁ……」

「みたいだな。けど、あの人達これから大丈夫かな……」

「大丈夫だと思うよ、お兄さん。『アンサーミラー』が止めなかった辺り、これが最適な道みたいだし、ボスさんも『リモートガン』のおじさんも良い人なのは間違いないから、あのお嬢ちゃんはこれからは幸せな人生を送るはずだよ」

「……そっか。それじゃあ俺達は帰るか。早く留守番してる妹に会いたいし」

「うん、賛成。私も妹ちゃんに会いたくなっちゃったしね」


『繋ぎ手』がにこりと笑い、それに対して助手の少年が微笑んだ後、二人は並びながら歩き去っていった。

いかがでしたでしょうか。

今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

それでは、また次回。

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