第2話 リモートガン 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「はあ……さて、どうしたものか……」
路地裏にひっそりと立つビルの一室。その薄暗い室内で紫色のスーツ姿の男性が表情を暗くしながらため息をついていた。
「……あの拳銃の力でアイツは次々と依頼をこなせるようになった。そして、その成功体験のお陰で自信もつき、他の奴らからも一目置かれるようになったのは良い事だ。
だが、最近のアイツの行動はどうにも目に余る。言動が粗暴な物になり、金遣いも荒くなった上に毎夜違う女と遊び歩いていると聞く。まだ女子供に手を上げるまではいってないようだが、このままではそれも時間の問題だ。奴のボスとして早急になんとかせねばな」
ボスが決意を固めた様子で息をついていたその時、部屋のドアが勢いよく開かれ、黒のオールバックに黒のサングラス、見るからに高級そうなスーツ姿の男が金色に輝くアクセサリーをじゃらじゃらと鳴らしながら部屋へと入ってくる。
「ボス、お疲れ様です」
「……ああ。だが、その悪趣味な格好はいただけねぇぞ。見ていて気分の良い物じゃねぇ」
「逆にボスが地味な格好してるだけですよ。こんな仕事をしてるのに、そのままじゃ周囲からナメられますよ?」
「…………」
「ボス、どうしたんです?」
殺し屋の男が不思議そうに首を傾げると、ボスは真剣な表情を浮かべながら静かに口を開いた。
「……お前、あの拳銃は捨てろ」
「……は? ボス、何を言ってるんです?」
「あれ、スーツのポケットに入れてんだろ? さっさと俺に渡せ。あれは俺達が手を出して良い物じゃなかったんだ」
「たしかに入れてますけど……ボス、もしかして俺にビビってんですか? 大丈夫ですよ、ボスの命を狙う気は──」
「違う! あれを使った事でたしかにお前は大切なもんを失ってるんだ! 今止めねぇと取り返しのつかねぇ事になるんだよ!」
「大切な物……ははっ、それがなんだって言うんですか? それを犠牲にして殺し屋として活躍出来るなら問題ないですよ。それに、健康面も問題なし、精神面も問題なし。これのどこが大切な物を失ってるっていうんですか?」
ニヤニヤと笑いながら殺し屋の男が訊くと、ボスは深くため息をついてから哀しそうな表情を浮かべた。
「……良心と善意だよ」
「はい?」
「弾の代わりにお前の中の良心と善意が失われてるんだよ」
「良心と善意……あははっ! そんなのでターゲットを殺せるなら、いくらでも差し出しますよ! そんなあっても金にもためにもならない物でターゲットを殺して金を得られるなら!」
「……そうか。なら、俺はお前を殺らないといけねぇな」
「え……」
ボスの言葉に殺し屋の男の顔が凍りつく中、ボスはスーツの胸ポケットからスッと拳銃を取りだし、迷うことなく殺し屋の男に銃口を向けた。
「ボス……何をしてるんですか? 俺は今ではここのエースですよ? そんな俺を喪っても良いって言うんですか!?」
「……構わねぇ。ほら、死にたくねぇなら銃を抜け。そして、俺が撃つ前に撃ってみろよ」
「くっ……!」
「10、9、8、7……」
「う、うわあぁーっ!!」
ボスが口にする死のカウントダウンに殺し屋の男は恐怖を覚えると、ポケットにつっこんでいた『リモートガン』を取りだし、怯えきった表情で銃口をボスに向け、そのまま引き金を引いた。
すると、殺し屋の男の表情は一瞬驚きの色に染まったが、すぐに顔がサーッと青ざめ、ふるふると震える手から『リモートガン』がスルリと抜けて床へと鈍い音を立てて落下した。
「お、俺……なんて事をして……!」
「……目、覚めたか?」
「ボス……俺、ボスになんて真似を……」
「……はあ、どうやら本当に大丈夫みたいだな。ったく……苦労を掛けさせんなよ」
「すいません、ボス……撃つ度に何かが抜けてくような感覚があって怖かったんですが、俺がようやくボスの助けになれると思ったら怖いなんて言えなくて……」
殺し屋の男が恐怖で震えながら言うと、ボスは大きなため息をつく。
「はあ……怖いなら正直に言え。言わずにいたから結局こんなになるまで酷くなったんだろ。まあでも、お前が本当に取り返しのつかないところまで行かなくて良かったな。たしかに殺しに情はいらねぇが、それ以外の時は別にそんな事はねぇからな」
「ボス……」
「さて、そろそろあれを──って、あの拳銃がねぇぞ?」
「え……ほ、ほんとだ……」
「もしかしたら、あの嬢ちゃんのところに帰ったのかもしれないな。まあ、俺達には扱えねぇ代物だし、金を払ったわけじゃねぇから別に良いけどな。それじゃあ、次はお前の処遇についてだな……」
「う……や、やっぱり俺はクビですか? 殺しも出来ない上にあれに魅せられてボスには迷惑を掛けましたし……」
殺し屋の男がシュンとしながら言う中、ボスは手に持っていた銃を男の目の前に出すと、引き金を引いた。
「わっ──って……ほ、炎……?」
「これは拳銃型のライターだ。面白そうだと思って買ってたんだが、まさかお前を救うために使う事になるとはな」
「お、驚かせないで下さいよ……」
「悪い悪い。だが、こんな物でもビビるお前じゃ、殺し屋は続けられない。だから、お前はこれから俺の秘書兼表の仕事での事務員だ。これからもキリキリ働けよ?」
ニヤリと笑うボスに対して殺し屋の男は驚いた様子を見せる。
「え……お、俺……クビじゃないんですか?」
「クビなんかにするかよ。お前、自覚はねぇだろうが、結構他の奴らから好かれてるんだぜ? そんなお前をクビにしたら、俺が他の奴らから文句を言われちまう」
「ボス……」
「俺もお前のその性格や雰囲気が気に入ったから拾おうと思ったんだ。俺だってクビにする気はねぇよ」
「ボ、ボス……!」
「……まあ、こんな事を言うのはちっと恥ずかしいんだが……おかえり」
「……はい! ただいま戻りました!」
嬉しそうな笑みを浮かべる男に対してボスは少し気恥ずかしそうな様子を見せていたが、顔は安心したように微笑んでいた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。