第22話 メンタルペン 中編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……ふぅ、宿題終わりっと」
青白い月が輝く夜、机に向かっていた少年は少し疲れた様子で息をつくと、持っていたペンを机の上に置いた。そして、椅子の背もたれにゆっくり体重を預けていたその時、机の隅に転がっていた虹の装飾がなされたペンが目に入ってくると、少年はそれを静かに手に取った。
「このペン……そういえば、普段はインクは黒だけど、事前に色を指定したらその色にインクが変わって、俺のその時のメンタルによって彩度が変わるって言ってたな。
今は……まあ、良くも悪くもないから、普通程度ってところだけど、ちょっと試しに使ってみるか。えーと、それじゃあ……青にしてみようか」
色を口にしてから少年はペンのキャップを取り、ペン先を適当な紙の上につけ、スーッと滑らせた。すると、紙には青色の線が引かれ、少年はスッとペン先を紙から離した。
「……思ってたより鮮やかな色だな。それじゃあ今度は……よし、赤にしてみよう」
少し期待したような顔で色を口にした後、少年は再びペン先を紙へとつけ、先程と同じように動かした。すると、紙には先程の青色より鮮やかな赤色の線が引かれ、目の前の光景に少年は驚いたような表情を浮かべる。
「本当に色が変わった……それに、色がさっきよりも鮮やかって事は、俺のメンタルはちょっと上向きになったって事になるのか。まあ、あの話が本当か知りたくてちょっとワクワクしてたし、上向きになるのは当然か」
受け取った際の話の真偽を確かめられた事で少年の口許は緩み、その後もまた別の色を指定しながら『メンタルペン』を使って字や絵などをかき始めた。
そして数分後、紙に空白が無くなると、少年は紙を見ながらハッとし、チラリと『メンタルペン』を見てから苦笑いを浮かべる。
「あはは……こんなに夢中になるなんて、まるで小さい頃に戻ったみたいだな。小さい頃もアイツと一緒に色々な絵を描いてみたり……」
その瞬間、少年の表情は暗くなり、『メンタルペン』に向けていた視線を部屋の隅に置かれている少年の絵へと移した。
「……ほんと、良い絵だよな。たしかに拙さはあるし、構図ももう少し変えてみても良いんだろうけど、絵自体に味わいがあって、見ていて本当に飽きない。
そんな絵を描けるのに……アイツ、本当にどこに行ったんだよ。描いた絵が次々に賞を獲ったとかで最近まで少し偉そうにしてたけど、突然いなくなるなんて聞いてねぇよ……。
荷物も美術室に置きっぱなしで、描いていた絵もそのまんま。警察も一応捜してくれてはいるけど、おばさん達も美術部の部員達も行き先には心当たりはなし。そんな状態じゃ見つかるわけないって……!」
そう言いながら目から涙が溢れると、少年はしばらく声を出さずに泣き始めた。その姿から少年が行方不明になっている人物の事を心から心配しているのは明らかだった。
「くそ……何か、何かヒントは無いのか? アイツが持ってた物とか描いていた絵とか──」
その時、少年は何かを思い出したように顔を上げた。
「……そうだ。アイツ、不思議な女の子からすごい絵筆を貰ったって話してたな。あの時はあまり真剣に話を聞いてなかったけど、その絵筆を手に入れた辺りからアイツの絵は評価され始めたし、少しずつアイツは偉そうになっていった。
つまり……アイツがいなくなったのはその絵筆が原因で、もしかしたら絵筆をくれたっていう女の子なら何か知ってるかもしれない。
そして、たぶんその女の子っていうのは、俺にこのペンをくれた女の子の可能性がある。こんなに不思議なペンを持ってるくらいだ。描いた絵を見た人を魅了する力を持つ絵筆を持っててもおかしくないしな……」
下校途中に出会った少女の姿を思い出しながら独り言ちた後、少年は手の中にある『メンタルペン』に視線を移してから何かを決意したような表情を浮かべた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。