第21話 クレヤボヤンスグラス 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「あっはっは! いやー、今日もたんまり儲けたなぁ……!」
ある夜、とあるホテルの一室ではメガネを掛けた全裸の男性が愉快そうに笑っていた。
少し薄暗い桃色の照明と厚めのカーテンが掛けられた窓から射し込む月光に照らされる室内には幾つもの財布が置かれた成人が二人以上並んで眠れる程の大きさのベッドなどが置かれ、隣接する浴室のドアには気持ち良さそうにシャワーを浴びる女性のシルエットが浮かび上がっていた。
「まったく、楽な話だよな。このメガネを使えば、街を歩いてる女の裸は見放題で、鞄や服の中を透視しちまえば財布の位置は簡単にわかるから、後はこれまでの経験で培ったスリの技術でスリ放題なんてなぁ。
おかげで、酒や女を買う金には困らねぇし、これをくれたガキ共には感謝してやらねぇとな。にしても……コイツのレンズを割ると、何か起きるって言ってやがったが、一体何が起きるんだ? せっかくだ、ちょっと試してみるか。金なら幾らでもあるから、修理費には困らねぇだろうしな」
男性はニヤニヤと笑いながら懐からナイフを取り出すと、外した『クレヤボヤンスグラス』のレンズへ目掛けて振り下ろした。すると、レンズはパリンという音を立てながらヒビが入り、そこからヒビが広がると、やがてレンズは粉状になってその場に散らばった。
「ちっ、やり過ぎちまったか。まあ良い、そろそろ別のやり方で金を手に入れようとしてたからな。とりあえずやる事やってから、あの女を利用して──」
その時、男性は体内の至る所が痛むのに気づき、胸を押さえながらその場に倒れこんだ。
「がっ……な、なんだこの痛み……!? まさかこれがあのガキが言ってた大変なこ──ぐぁっ……い、痛みが……全然止まねぇ……!?」
まるで体内を次々に突き刺されるような痛みに男性はベッドの上をのたうちまわっていたが、やがてその体を切り裂くようにしながらキラキラと光る粉のような物が徐々に現れ始めた。
「こ、これは……レンズの破片……!? や、止めろ……止めてくれー…!!」
男性の懇願も虚しくレンズの破片達が男性の体を切り裂きながら外へ出てくると、その箇所からはドクドクと血が流れだし、いつの間にか姿を消していた『クレヤボヤンスグラス』の本体とレンズの破片には気づかずに男性の命の灯はゆっくりと消えていった。
同時刻、ホテルの外では『繋ぎ手』と少年が並んで立っており、『繋ぎ手』の手の中には『クレヤボヤンスグラス』の本体と小箱には入ったレンズの破片があった。
「……あのお兄さんはダメだったようだね」
「レンズ、割ったみたいだからな。けど、レンズを割るとどうなるんだ?」
「レンズを割っちゃうと、その破片が粉状になって、割った人とその時の所有者の体内に入るの。そして、内蔵や血管を傷つけまわった後に体外へ出るために体を切り裂き始めて、最後には体をズタズタにしながら出てくる感じかな」
「うわ……結構エグいな」
「うん、だからあの部屋は今血塗れになってるんじゃないかな。さて、それじゃあこの子を直してもらうためにそろそろ帰ろうと思うけど……お兄さん、もしかしてここに私と一緒に入りたかったりする?」
「しない。そういう誘いをされたら、普通は色々期待するんだろうけど、この後にすぐパトカーや救急車が来てもおかしくないのに、そんな気分にはなれないって」
「あははっ、だよね。それじゃあ帰ろっか?」
「ああ」
そして、遠くからパトカーと救急車のサイレンの音が聞こえてくる中、二人は夜の闇の中へと消えていった。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。