第21話 クレヤボヤンスグラス 中編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「さーて……路地を出たは良いが、何をすっかな……」
路地を出た後、男性は迷った様子で独り言ちる。目の前では手を繋いで歩くカップルや仲良く話す親子がおり、男性はそんな人々の姿を忌々しそうに見ていた。
「……ちっ、こっちがおもしれぇ事なくて退屈してんのにどいつもこいつも楽しそうにしやがってムカつくな。なら、こっちも色々楽しませてもらうとするか」
そう言いながら男性はポケットから銀縁の眼鏡を取り出すと、ニヤリと笑いながらそれを掛けた。すると、目の前で見え始めた光景に男性は一瞬驚いたものの、すぐに楽しそうにニヤニヤと笑い始めた。
「おー、見える見える。この『クレヤボヤンスグラス』は色々な透過して見る事が出来るってあのガキは言ってたが、本当に色々見えるじゃねぇか。
まあ、野郎やガキのも見えちまうが、こうして街中にいる女の裸を無料で見られるのは本当にラッキーだな。本当ならただ見るんじゃなく触ったり楽しませてもらったりしてぇが……ん、待てよ。色々な物を透過出来るって事は、別に服以外も透過出来るって事だよな……」
何かを思いついた様子の男性は街中を歩く人々の姿をジッと眺め、ハンドバッグを肩に掛けた女性が目の前を通った瞬間、男性は嬉しそうに笑った。
「……やっぱりだ。このメガネ、服を透過して女の裸を見るだけじゃなく、服のポケットやカバンの中も透過して見る事が出来る。となれば、やる事なんて決まってるよな……」
男性はニヤリと笑ってからスッと前へと進み、通りすぎていった女性をそのまま追うと、近づいた瞬間にバッグの中に手を入れて中の財布を取り出して自分のポケットへと入れた。
そして、音を立てないようにしながら女性から離れると、さっきまでいた路地まで引き返し、路地の中へ入ると、ポケットから財布を取り出して静かに笑い始めた。
「ははっ、収穫だな。スリの経験はあったから出来るとは思っていたが、まさかこんな簡単に出来るなんて驚いたぜ。だが、ここまで楽に手に入るならもう少し欲しいとこだよな……」
男性はニヤリと笑いながら言うと、再び路地から出て街を歩く人々の姿を観察し始めた。そして、スリをしやすそうな相手を見つけると、気づかれないように近づき、その度に『クレヤボヤンスグラス』で透過して見つけた財布を盗み続けた。
そして、それから数時間後、近くにあった安ホテルの一室にいる男性の手元には多くの財布があり、それを見た男性は嬉しさからニヤニヤと笑っていた。
「大漁大漁。ここまで楽にスリが出来たのは初めてだな。さて……この金を使って何をするかな。見た感じだと金額もそこそこあるし、酒を買って祝杯を挙げても良いし、適当な女を買って楽しむのも悪くない。くくっ……楽しみだなぁ」
独り言ちる男性はイヤらしい笑みを浮かべており、その笑みのままで盗んだ金を数える姿を『クレヤボヤンスグラス』だけが静かに見つめていた。
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それでは、また次回。




