第21話 クレヤボヤンスグラス 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「はあ……何か良い事ねぇかな……」
雲一つ無い快晴の昼下り、一人の男性が退屈そうな表情で街を歩いていた。
「最近、おもしれぇ事がねぇから、退屈でしかたねぇな……あーあ、何か起きねぇかなぁ……」
そう言いながら男性が近くにある路地へ進路を変え、そのまま歩き続けていたその時だった。
「そこのお兄さん、ちょっと良いですか?」
「あ……?」
男性が振り向くと、そこにはニコニコと笑う少女と少し不安そうな表情を浮かべる少年の姿があり、男性は少女の姿に舌舐りをすると、少女達に近付いた。
「なんだ、ガキ共。こんな路地で俺に声をかけて来るって事は、俺の事を楽しませてくれるつもりでもあるのか?」
「いえ、無いですよ。それより……お兄さん、何か悩み事はありませんか?」
「悩み事……強いて言えば、最近おもしれぇ事が無くて退屈してる事くらいだな。少し前なら、その辺の奴をカツアゲして小遣い稼ぎしたり適当な女を捕まえてイイコトしたりしてたが、それにもそろそろ飽きてきてたんだ」
「なるほど……」
「なあ……本当に声をかけて良い相手なのか?」
「あはは、大丈夫だよ。それで、お兄さん。退屈だっていうなら、この子の力を借りてみてはどうですか?」
そう言いながら少女が取り出したのは、一見何の変哲もない銀縁のメガネだった。
「メガネ……おいおい、メガネをかける程、視力は落ちてねぇぞ?」
「大丈夫ですよ、これは度の入っていない物ですから。この子は『クレヤボヤンスグラス』という名前で、これを掛けた人は、あらゆる物を透過して見る事が出来るんです」
「へー……んじゃあ、建物の壁や女の服も無視して中が見えるって事か?」
「まあ、そういう事です。因みに、それを掛けて私を見ても服の中は見えませんからね?」
「ちっ……まあ、良いか。んで、それを見せてきたって事は、これを買わねぇかって話か?」
「いえ、これは差し上げます。私は道具と縁のある人と道具を出会わせるのが役目なので」
「このメガネと俺がねぇ……まあ、くれるって言うならありがたくもらっておくか」
そう言いながら男性が『クレヤボヤンスグラス』を受けとると、少女は笑みを浮かべたまま静かに口を開く。
「さて、それじゃあ注意点をお話ししますね」
「注意点?」
「はい。その子で色々な物を透かして見るのは構いませんけど、レンズを割らないようにだけ気をつけて下さいね。『クレヤボヤンスグラス』はレンズを割られるのが本当に嫌いなので、割ってしまったら大変な事になりますから」
「大変な事……どんな事になろうと怖がる気はねぇが、とりあえず守ってやるよ」
「ありがとうございます。それじゃあそろそろ私達は失礼しますね。お兄さん、その子を大切にしてあげてくださいね」
にこりと笑いながら言ってから少年と共に少女が歩き去っていくと、それを見送ってから男性は手の中の『クレヤボヤンスグラス』に視線を落とす。
「色々な物を透かして見られるメガネ……今のところ、女の裸を見る以外の使い道は思いつかねぇが、何か金儲けに使えるかもしれねぇし、とりあえず取っとくか」
そう言いながら男性は『クレヤボヤンスグラス』をポケットにしまうと、そのまま路地の出口へ向けてゆっくりと歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。