幕間
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
『いただきます』
『不可思議道具店』に新たな仲間が加わった翌日、四人は居間に置かれた炬燵に入りながら揃って手を合わせ、天板の上に並べられた朝食を食べ始めた。
「……美味い。昨日も思ったけど、こんなに美味い物を食べたのは本当に久しぶりだな」
「うん、あの家でも一応普通の食事は出てきたけど、あまり食べてる気がしなかったもんね」
「まあ、二人からすれば落ち着ける環境じゃなかったみたいだからね。やっぱり何かを食べるなら落ち着ける状態の方が良いよ」
「同感ね。さて……それでは、昨日話せなかった事について少しお話ししますね。話す事はたくさんありますが、お店の事や道具達については追々話しても問題は無いので、今は私達の事について少しお話しします」
「あ、はい。でも、俺達に対しても敬語は無しで良いですよ。俺達はお世話になっている側ですし、言ってみれば立場としては貴方の方が上ですから」
「私もその方が良いです」
「……わかったわ。私としてはどちらでもよかったけれど、貴方達がそう言うのならその意思を尊重しましょうか。因みに、私の呼び方はどうでも良いわよ。この子は私を御師匠様と呼ぶけれどね」
「そういえば……なあ、どうしてこの人を御師匠様って呼んでるんだ?」
少年からの問いかけに『繋ぎ手』はにこりと笑う。
「御師匠様には料理や道具作り、お勉強を教えてもらってるし、人生も私より長く生きてるから、私からしたら御師匠様なんだ」
「なるほどな……でも、たまに名前で呼ぶ事って無いのか?」
「名前……名前かぁ」
『繋ぎ手』のどこか複雑そうな表情に兄妹が不思議そうに顔を見合わせると、店主の女性は微笑みながらその疑問に答えた。
「私達、以前の名前はもう捨てたのよ」
「名前を……」
「捨てた……?」
「ええ。今は詳しく話せないけど、神様から保護された時に過去の自分との決別の意味を込めて名前を捨てたのよ。でも、呼び名がないと困るから、この子は私を御師匠様と呼んで、私はこの子を『繋ぎ手』と呼んでるわ。もっとも、この子の方から話しかけてくる事が多いから、私から『繋ぎ手』と呼ぶ事は少ないけどね」
「そうだったんですね……」
少年は申し訳なさそうな表情を浮かべたが、『繋ぎ手』はそれに対してにこりと笑う。
「だから、君も私の事は遠慮無く『繋ぎ手』って呼んでくれて大丈夫だよ。神様や秘書の子、道具達もそう呼んでるし」
「……わかった。でも、これだと思った呼び名とか名前とかが思い付いたら、提案させてもらうからな。もう、その呼ばれ方が定着してるんだろうけど、これからは一緒に暮らすわけだから、いつまでも『繋ぎ手』って呼ぶよりは何か別の呼び方があった方が良い気はするからさ」
「別の呼び方……」
「あ、もちろん嫌なら良いけど……」
「ううん、そう言ってもらえるのはすごく嬉しいよ。今までは私と御師匠様だけだったから特にいらないかなと思ってたけど、これも良い機会だし、それを楽しみにさせてもらおうかな」
にこりと笑う少女の姿に一瞬驚いたような表情を見せた後、少年は安心したように微笑みながら頷く。
「……ああ、楽しみにしててくれ。因みに、俺達の呼び方で良いのが思い付いたら、遠慮無く提案してくれて良いからな。もう前の俺達とは違うから、二人に倣って俺達も前の名前は捨てようと思うからさ」
「そうだね。名前をつけてくれたお母さん達には悪いけど、名前を使い続けてるとあの家での出来事も思い出しちゃいそうだから、これを機に新しい私達になっちゃおうかな」
「そっか。それじゃあ、とりあえず二人の事はお兄さんと妹ちゃんって呼ばせてもらうね。御師匠様はどうしますか?」
「私もそうさせてもらおうかしら。すぐには他の呼び名も思い付かないしね」
「わかりました。それじゃあ俺は、貴方の事はひとまずオーナーって呼ばせてもらいますね」
「それじゃあ、私はお姉さんかな」
「ふふっ……ええ、構わないわ。そういえば……二人はまた学校って通いたいかしら?」
「学校……通えるんですか?」
少年の問いかけに店主の女性は静かに頷く。
「今は二人の存在はあの世界からは無くなっているけれど、神様に頼めば別の人間としてまたあの世界で学校に通ったりどこかにお出かけ出来たりするわ。実際、この子も『繋ぎ手』としての役目を果たしながら学校に通っているしね」
「因みに、学校の中では私は噂の中の存在みたいに思われてるけど、クラスのみんなは私がこういう事をしてるって知ってるし、ありがたい事に私の事も受け入れてくれてるよ」
「そうなのか……それじゃあ俺もまた学校に通いたいな。勉強自体は嫌いじゃないし、学校での経験もこの店のためになるかもしれないしな」
「私もまた学校に通いたいです」
「わかったわ。それじゃあその件は後で神様に伝えておくから、一度この話は終わりにしましょうか。そろそろご飯を食べ終えちゃった方が良いしね」
店主の女性の言葉に三人が頷いた後、四人はまた別の話に花を咲かせながら楽しそうに再び朝食を食べ始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。