第20話 アルケミーボトル 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「ふんふんふん♪」
ある日の事、『不可思議道具店』の店内で鼻歌を歌いながら少女は布巾で棚の拭き掃除をしていたが、ふとカウンターの方を向くと、そこで書き物をしていた店主の女性に声をかける。
「御師匠様、この前来た男の子、あれからどうしてますかね?」
「……さてね。ただ、神様が保護対象だとしたのなら、今頃神様の元にいると思うわ。神様が保護対象や助っ人対象とした人は、全員がそのまま放っておいてはいけない力の持ち主だからね」
「私や御師匠様もそうでしたからね。もっとも、私の場合は《《また別の力》》がその危険性を孕んでいるわけですけど」
「そうね。でも、今はその力が暴走しそうにはなってないでしょ?」
「はい。今は楽しく暮らせてますし、力自体は一時的に神様に封印してもらってますから」
「それならよし」
微笑みながら言う少女の言葉に店主の女性が満足げに頷いていたその時、店の入り口がガラリと開き、二人がそちらに視線を向けると、そこには四人の少年少女の姿があった。
「あ、神様達だ」
「いらっしゃいませ。そちらは……先日、『アルケミーボトル』をお買いになった方と妹さんですか?」
「そうだよ。やっぱり、彼らは保護対象になったから、この子達の親戚の家から救出してきたんだ。あの家の奴ら、想像していたよりも酷くてね……妹さんが『アルケミーボトル』の力でどうにか退院してきた途端、お兄さんには犯罪を、妹さんには自分達の息子へ性的な事をするように強要しようとしたもんだから、すぐに保護してきたよ。
因みに、抵抗はされたけど流石に命までは取ってないよ。このままでもあいつらは確定で地獄行きだろうし、殺しちゃったら処理や書類書きが面倒だしね。
だから、二人からの許可をもらった上で一時的に二人の存在をあの世界には無かった事にして、あいつらや他の親戚達との縁なんかを全部絶ち切ってきたよ。調べた感じだとどの親戚の家に行っても幸せにはなれないようだったからね」
「この件は天国にいらっしゃるお二人のご両親や祖父母にも伝えており、許諾してもらった上での行動なのでご心配なく」
「なるほど……でも、ご両親のところには残らなかったんですね。神様にお願いすれば、天国に残る事は出来たはずですが……」
店主の女性が不思議そうにすると、それに対して少年は真剣な表情で答える。
「……たしかに両親や祖父母からはここにいても良いんじゃないかと言われました。けど、それだとダメだと思うんです」
「それだとダメって?」
「両親が亡くなって守ってくれる人がいなくなった途端、俺は妹を守るのが難しくなった。俺はそれが本当に悔しかったんだ。
妹を守れるのはもう俺だけなのに、俺の力が無いばかりに妹は病気にもなったし心に酷い傷を負うところだった。もし、神様達が来てくれなかったら、今頃妹は……!」
「お兄ちゃん……」
「だから、俺は両親の力が無くても妹を守れる程に強くなりたい。妹が元気になったのだって『アルケミーボトル』の力で手に入れた特効薬入りのジュースのお陰だからな。今度こそ俺自身の力で妹を守って元気にしたいんだ」
「なるほど……うん、良いと思う。私、君の事を応援するよ。御師匠様もそうですよね?」
少女の問いかけに店主の女性は微笑みながら頷く。
「そうね。自分の力で何かをしたいと思うのは素晴らしい事だから。それに……貴方達には私達と同じでその体に秘められた力があるわけですから、それをしっかりと使いこなすためにも強くなろうとするのは良いと思います」
「俺達に秘められた力……」
「そういえば、神様もさっきそんな事を言ってましたけど、本当に私達にも不思議な力があるんですか……?」
「うん、あるよ。僕は君達のように不思議な力を持っていて、放っておくと世界に何らかの影響を与えてしまうモノ達を保護するのが仕事の一つだからね」
「なるほど……」
「まあ、今はまだ目覚めていないから、どんな力かは話せないよ。話してしまった事でその力を暴走させてしまう恐れもあるからね。でも、その力が目覚めた時にはしっかりと教えにくるから安心してね」
「あ、はい──って、教えにくる……?」
少年が首を傾げる中、神は店主の女性に視線を向けると、にこりと笑う。
「という事で、彼らの事をよろしくね。僕がこの子と一緒にお世話をしても良いけど、この店で働きながら色々な人に出会って話す事も大切だし、『繋ぎ手』の手伝いをしてる内に色々成長出来るかもしれないからさ」
「『繋ぎ手』……?」
「私の事だよ。私は色々な道具と話が出来るから、このお店の道具を縁がある人に渡して、道具と人間の絆を繋ぐのが役目だからそう呼ばれてるの」
「なるほど……」
「でも、本当にここにお世話になって良いんですか? たしかに天国に戻る気はないし、向こうの世界には戻れませんけど……」
少年が不安そうに言うと、店主の女性は優しく微笑む。
「ええ、大丈夫ですよ。ここには基本的に道具と縁がある人しか来ませんから、私達だけでも問題はありませんが、新しい住人が増えて賑やかになったらこの子も喜びますし」
「えへへ、そうですね。御師匠様との生活も楽しいですけど、一緒にお掃除をしたりお話をしたりする相手が出来るのは嬉しいですもん。私は大賛成です」
「という事で、彼らをここに住まわせるのは大丈夫です、神様。私達が責任を持ってお世話をするので安心してください」
「うん、お願いね。それじゃあ僕らはそろそろ帰ろうかな。僕も別の仕事があるし、この子もアイドルとしての仕事がそろそろあるみたいだから」
「そうですね。それでは、私達はこれで失礼します」
そう言って神とお付きの少女が店を出ていった後、少し緊張した面持ちの兄妹を見ながら店主の女性は微笑んだ。
「さて、色々このお店について説明したいところですが、今日はもう疲れているでしょうし、話は明日にして、そろそろご飯にしましょうか」
「わかりました、御師匠様。それじゃあ私が二人を空いている部屋に案内してきますので、御師匠様は先にご飯の準備をしてもらって良いですか?」
「ええ、わかったわ。それでは、ご飯の時間までゆっくりしていてくださいね」
「あ、はい……」
「わかりました……」
兄妹が申し訳なさそうに返事をした後、少女は二人の手を取りながらにこりと笑った。
「二人とも、これからよろしくね」
「あ……ああ、よろしくな」
「よろしくね、お姉ちゃん」
「うん!」
少女が嬉しそうに頷き、兄妹がようやく安心したように微笑む中、店主の女性は三人の姿を微笑ましそうに見つめた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。