第20話 アルケミーボトル 中編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
よく晴れた昼頃、頭上に広がる明るい快晴の空とは逆に一人で歩く少年の表情は暗かった。
「……アイツ、今日は元気だと良いな。この前行った時は話せはしたけど、その後に調子を崩しちゃったし、少し心配だな。でも、今日の俺には頼りになる助っ人がいるし、きっと楽しんでくれるはずだ」
背負っているリュックサックに視線を向けて少し微笑んだ後、少年は少しだけ表情を明るくしながら歩き続けた。それから数分後、病院に着いた少年は受付やナースセンターにいる職員に挨拶をしながら院内を歩き、ある一室に入ると、ベッドの上にいる少女に話しかける。
「……よう、今日は比較的元気そうだな」
「……あ、お兄ちゃん。うん、朝ごはんを食べられるくらいは元気だよ」
「そうか、それならよかったよ」
「……私よりもお兄ちゃんの方が元気なさそう。やっぱりあの家にいるのはよくないんだよ」
「……そうだな。でも、父さんと母さんがいない以上、嫌でもあそこにいるしかない。俺がお前を守れる程に強かったらよかったのに……」
俯きながら言う兄の表情には哀しみと悔しさの色が浮かび、その姿を見る妹も哀しそうな表情だった。
「お兄ちゃん……本当にごめんね。私が入院なんてしたばかりにお兄ちゃんはあの家に一人だけで……」
「良いんだよ、別に。入院という形は残念だけど、お前だけでもあの家から離れられて、アイツらが干渉出来ないようになってるから俺は安心してる。
たしかに毎日辛いけど、お前がこうして色々な人から守ってもらえる場所にいるのは本当に嬉しいよ」
「お兄ちゃん……」
「……それより良い物を持ってきたんだ。きっと楽しんでくれるはずだ」
「良い物……?」
妹が首を傾げると、兄は微笑みながら頷く。
「ああ。変わった道具屋に偶然行けてな、そこで手に入れたんだけど──あ、あった」
「それは……金色の水筒?」
「そうだ。なんでも『アルケミーボトル』っていうみたいで、この中に水を入れた後に飲みたい物を思い浮かべて振れば、中身がそれに変わるらしいんだ」
「そうなんだ。お兄ちゃんは何か飲みたい物ってある?」
「俺は特にはないな。お前はどうだ?」
「私は……無理だと思うけど、特効薬入りのジュースが出来たら嬉しいな。それさえ出来たら私も元気になってお兄ちゃんの助けになれるし……」
「……わかった。とりあえずやってみるか。一応、水だけは入れてきてたし、色々頼まれてもいいようにペットボトルの水も何本か持ってきてたしな」
その言葉に対して妹が頷いた後、兄は妹が口にした特効薬入りのジュースを想像しながら『アルケミーボトル』を軽く振った。すると『アルケミーボトル』はぼんやりと白い光を放ち、兄は少し驚いてから振るのを止めると、『アルケミーボトル』の蓋を取って中身をコップに注いだ。
「さあ、飲んでみてくれ」
「うん、いただきます」
頷いた後、妹はコップに注がれた金色の液体を口にした。
「……うん、美味し──って、あれ……?」
「ん、どうかしたか?」
「……身体が軽い。それに、頭も痛くなくて身体の奥から気力と元気が沸いてくる感じがするの……!」
「ほ、本当か!?」
「うん。まるでお母さん達と一緒にいた時みたい」
「そっか……でもとりあえずお医者さんに診てもらおう。元気になったとはいえ、色々検査はした方がいいからな」
「うん!」
妹が元気よく返事をした後、兄はその姿を嬉しく思いながらベッド付近にあるナースコールのスイッチを押した。
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それでは、また次回。




