第20話 アルケミーボトル 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
現世とは隔絶された場所に建ち、世にも不思議な道具を扱う道具屋、『不可思議道具店』。その店先では今日も一人の少女が楽しげに落ち葉の掃除をしていた。
「ふんふんふふ~ん♪ 落ち葉の落ち場はここですよ~♪ 落葉だけならとても楽よ~♪」
楽しげに歌いながら手にした竹箒で掃き掃除を続けていた少女がふと顔を上げると、こちらに向かって歩いてくる人影が見え、少女は嬉しそうに微笑む。
「おっ、お客さんだ。今回のお客さんはどの子との縁が結ばれた人なのかな……まあ、良いや。とりあえずお迎えに行こうっと」
独り言ちると、少女は竹箒を手に持ちながら歩いてくる人物へと近づいた。そして、少女が近づいてきた事に驚いた短い黒髪の少年が立ち止まると、少女は目の前で足を止めてからにこりと笑った。
「こんにちは。そしてようこそ、現世とは隔絶されたこの場所へ」
「現世とは隔絶された……? おい、それってどういう事だ? 俺はただ街の中を歩いていただけだぞ?」
「ふふっ、そうだろうね。ここはこの先にある『不可思議道具店』が扱う道具との縁が結ばれた人や道具の力を借りた人だけが来られるところだから」
「『不可思議道具店』……つまり、この先には色々な道具を扱う道具屋があるんだよな?」
「そうだよ。何か欲しい物でもあるの?」
「……まあな」
「なるほど……それじゃあまずはウチにおいでよ。君の望む物との縁が結ばれてるかはわからないけど、話を聞いてる内に他の子達も興味を持ち始めるかもしれないからさ」
「……わかった」
少年が静かに頷きながら答えると、二人は『不可思議道具店』へ向けて並んで歩いた。そして、入り口を開けて中へ入ると、中にいた店主の女性は話をしていた少年から二人へ視線を移しにこりと笑う。
「ようこそ、『不可思議道具店』へ。私共が扱うのは、私が作った世にも不思議な道具達ばかりです。本日はどのような道具をお探しですか?」
「……病気の妹を喜ばせる事が出来る道具が欲しいんです。何かそれらしいのはありますか?」
「病気の妹さんを喜ばせる……」
「……俺達、両親を事故で亡くしてて、その後に揃って親戚の家に引き取られたんです。けど、それも親戚達が嫌がりながら話し合った結果で、俺達を引き取った親戚は俺達の事をいつも厄介者扱いするし、そこの家の子供も俺達の事を召し使いのように考えてるみたいで、俺には宿題や部屋の掃除をやらせて、妹には必要以上にボディタッチをしてきて……」
「……その結果、妹さんは病気に?」
店主の女性が問いかけると、少年は辛そうな表情を浮かべながら頷く。
「……はい。どうにか入院だけはさせたので、妹はあの家から離れられたんですが、他人──特に異性をあまり寄せ付けないようになって、俺や女性の看護師と話す時もなんだか辛そうで……だから、せめて何か面白い物でもあげられたらと思うんです。
物の力でどうにかしようとするのは良くない気がするんですが、妹が喜んでくれるなら俺はそれでも良い。妹には前みたいに楽しそうにしていてほしいだけですから」
「そっか──ん?」
「どうかした? もしかして、道具が呼んでる?」
「道具が呼んでる……?」
「そう、この子は道具と会話が出来るんだよ。ああ、因みに僕は神様だよ。これからよろしくね」
「道具と会話が出来る子に神様……」
少年がわけがわからないといった表情を浮かべる中、少女は店内を歩き始めると、やがて棚の中に置かれていた道具の前で止まり、それを手に取った。そして、それを持って戻ってくると、持っていた金色の水筒を少年へと見せた。
「はい、この子はどうかな?」
「これは……水筒?」
「そう。この子は『アルケミーボトル』っていう名前で、この中に水を入れてから飲みたい飲み物を頭の中に思い浮かべながら振ると、中身がその飲み物に変わるんだ」
「ただの水が別の飲み物に……」
「名前の通り、錬金術みたいな感じだね。因みに、この水筒は中身を温かい物にも変えられるのかな?」
「出来ますよ。冷たい水を入れてても温かいスープに出来ますし、熱湯を入れててもキンキンに冷えたジュースに変える事も出来ます。後、普通なら飲めないような海水や泥水でも飲める物に変えられますよ」
「本当に錬金術みたいだな……でも、そんなすごい物なら、やっぱり高いんだよな?」
不安そうに言う少年に対して少女はクスリと笑うと、『アルケミーボトル』の値段を答えた。すると、その値段に少年は驚いた。
「え……そんなに安くて良いのか?」
「はい、大丈夫ですよ。道具によって値段は様々ですが、他の道具もだいたい同じくらいですから」
「そうなんですね……それじゃあこれ、代金です」
「……はい、ちょうど頂きました。レシートは必要ですか?」
「あ、大丈夫です。それじゃあ俺はこれで失礼します。あの……妹が元気になったら、またここにきても良いですか?」
「はい、いつでもおいでください。その『アルケミーボトル』を持っていれば、ここに来る事が出来る場所を感じ取れますから」
「わかりました」
少年は微笑みながら答えた後、店主の女性達に頭を下げてから入り口へ向かって歩いていくと、そのままドアを開けて外へと出ていった。
「……妹さん、元気になると良いですね」
「そうね。ところで、神様。彼から何かを感じ取ったようでしたが、もしかして……」
「うん、たぶん保護対象だね」
「保護対象って事は……それじゃあ彼も……?」
「それと、妹さんもね。という事で、保護活動の準備のためにそろそろ帰るよ。本当に保護をするなら早めにした方が良いからね」
「わかりました」
「神様、また来てくださいね」
「うん」
神が頷きながら答え、そのまま入り口を開けて店を出ていくと、少女はドアを見ながら店主の女性に話しかけた。
「保護対象かぁ……まあ、神様なら大丈夫ですよね」
「そうね。さて、その件は神様に任せて、私達はいつも通りの作業に戻りましょう」
「はい、御師匠様!」
少女が嬉しそうに返事をし、それに対して店主の女性が微笑んだ後、二人はそれぞれの作業へと戻っていった。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。