第2話 リモートガン 中編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
早朝、殺し屋の男は様々な設備が整った清潔感の漂うキッチンに立ち、手慣れた様子で朝食の準備をしていた。
「……よし、こんなもんか。それにしても……前までは料理なんてまったくした事が無かったけど、こうしてやらないといけなくなれば、案外出来るようになるもんだな。
まあ、たとえ料理があの頃から出来ても、浮気は普通にされてたんだろうな……追い出される直前、俺には何の魅力も無いとか男らしくない体のお前じゃもう興奮しないなんて言われたし……」
殺し屋の男は暗い表情でため息をついたが、すぐに気持ちを切り替えた後、出来上がった料理を次々とテーブルへと運び、椅子に静かに座ってから両手を合わせた。
「いただきます」
その言葉を口にした後、殺し屋の男はゆっくり朝食を食べ始めた。
「……うん、今日もよく出来てるな。でも、それは作りなれてきたからだけじゃなく、ボスが俺みたいな落ちこぼれにもこんなに良い家を与えてくれたからだよな。家具はどれも良い物だし、キッチンや浴室の設備も最新式で、二階や地下室まである。
おまけにその費用は全部ボスが払ってくれてるなんて……もう本当にボスには頭が上がらないよ。でも、そんなによくしてもらってるのに俺は殺し屋として本当に出来が悪くて、いつもボスに怒られてばかりだ……はあ、早くボスに恩返しがしたいなぁ」
ため息混じりにそう言っていたその時、テーブルの隅に置かれた一丁の拳銃が殺し屋の男の視界に入ってきた。
「あれは……昨日手に入れた拳銃だよな。たしか大切な物を引き換えに写真に写ってたり絵で描かれている相手をその場にいながら撃つ事が出来るってあの子は言ってたな。
あの時はすごい物が手に入ったと思ったけど、よくよく考えてみると、そんなに都合の良いなんて無いよな。まあでも、せっかくだから試すだけ試してみるか」
男は席を立つと、棚の引き出しの中に入れていた一枚の写真を手に取り、机まで戻ってきた。そして、写真を机の上に置いてから『リモートガン』を撃つ準備を整えると、引き金に指を掛けながら銃口を写真に写る男性の眉間へと向ける。
「……よし、撃つぞ」
少し震える声で言った後、殺し屋の男は勢いよく引き金を引いた。すると、パンッという乾いた音が響くと同時に写真の男の眉間には穴が一つ空いたが、その下の机には傷一つついていなかった。
「……俺、撃ったよな? 撃ったはずなのに、どうして机が傷ついてないんだ……? それに、撃った瞬間に何かが抜けていったような感覚……たぶん、それが弾の代わりになった物なんだろうけど、本当に撃ってよかったのかな……」
男の顔は青ざめ、『リモートガン』を使用した事への後悔でいっぱいになっていたその時、机の上に置いていた男の携帯電話が震えだし、男が画面に視線を向けると、そこには男が『ボス』と表示されていた。
「ボ、ボスから……? と、とりあえず出てみるか……」
震える手で殺し屋の男は携帯電話を取り、画面の通話ボタンを押してから耳に当てた。
「もしもし……?」
『……率直に訊く。お前、あの拳銃を使ったか?』
「使いましたけど……何かあったんですか?」
『……お前のターゲットだった男が死んだ。それも眉間を撃たれてな』
「死んだ……」
『お前が失敗したから他の奴にその仕事を振ったんだが、張り込んでいたソイツから突然ターゲットが撃たれたようだと今連絡があったんだ。
だが、銃声は聞こえなかったらしく、他の組織の奴の気配も無かったと言っていたから、お前があの拳銃を使ったんじゃないかと思ったんだが……あれがまさか本物だったとはな。
お前、使った後は何か起きてないか? 何か変な物が出てきたとか具合が悪くなったとかそういうのは無いか?』
いつになく優しいボスの声に殺し屋の男は安心感を覚えたが、自分が感じた感覚については答えてはいけないと考え、その事を忘れるようにしながら返答した。
「だ、大丈夫です……けど、これが本物だっていうなら、ようやく俺もボスや他の人達の力になれるわけですよね? これまで役立たずでしたけど、ようやく俺も殺し屋として活躍出来るんですよね……!」
『……落ち着け。とりあえず、飯を食って着替えたらまずは俺のとこへ来い。それまでには詳しい情報も入っているだろうし、あの拳銃についても話したいからな』
「わかりました……」
『後、ここに来るまでに何か変化があったり具合が悪くなったりしたらそれも報告しろ。部下の体調管理も俺の仕事ではあるが、その拳銃のようによくわからない物を扱うのも初めてだから、何が起こるかわからないしな』
「あ、はい……」
『朝からすまなかったな。それじゃあまた後でな』
「はい、失礼します……」
そして、ボスとの通話が終わると、殺し屋の男は携帯電話を再び机の上に置き、『リモートガン』へ視線を向けた。
「……ボスに嘘をついちゃったな。けど、あの時に感じた感覚について話したら、絶対にこれを没収される。だから、これからも黙っていよう。お世話になってるボスの力になれるなら、何を失っても構わない。たとえ、それが俺の命だったとしても……」
『リモートガン』を見る殺し屋の男の目はとても真剣で、その言葉には嘘偽りが無いようだった。そして、朝食や着替えを済ませ、『リモートガン』などを持った後、男はいつものように職場へと向かうために玄関を押し開けて外へと出た。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。