第19話 フューチャーブレス 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「おはようございます」
「おお、おはよう」
「おはようございます」
よく晴れた日の朝、男性社員はオフィスにいた他の社員と挨拶を交わしながら自分の席へと向かった。そして、その途中で一人の女性社員の席の傍を通ると、男性は嬉しそうな笑みを浮かべながら女性社員に挨拶をした。
「先輩、おはようございます」
「あ、おはよう。あれ……君、そんなブレスレット持ってたっけ?」
「ああ、これですか。この前手に入れた物なんですが、今日まではプライベートの時しかつけてなかったんです。因みに宝石の部分を触ると、気持ちが落ち着いたり疲れが取れたりするそうですよ。先輩も触ってみませんか?」
「うーん……そうだね。最近、少し疲れてる気がするし、ちょっとその力にあやかってみようかな。それじゃあ少し失礼するね」
「はい」
男性社員が返事をした後、女性社員は『フューチャーブレス』の宝石の部分に触れるのに合わせて男性は聞こえない程度の声で自分達の終業の時間を口にした。
すると、男性社員の頭の中に女性社員のこれからの未来の映像が流れ始めたが、その中のある場面が映った瞬間、男性社員はその内容の意外さに思わず驚きの声をあげていた。
「え……」
「……ん、どうかした?」
「あ、いえ……ちょっと思い出した事があっただけなので気にしないでください。それで……疲れが取れた感じはしますか?」
「そうだね……まあ、ちょっと体が軽くなった感じはするかな。ありがとうね」
「いえ、先輩の力になれたのなら嬉しいです。そ、それじゃあ僕はそろそろ席に戻りますね」
「うん」
女性社員が微笑みながら頷くのに対して笑みを返してからクルリと後ろを向いた後、男性社員は自分の席へ歩きながら『フューチャーブレス』によって知った未来を想起した。
「……さっき先輩を襲っていたのって、やっぱりあの人だよな……? でも、あの人は未成年への強制性交等罪で捕まってるはずだ。
それじゃあもしかして……いやいや、あの子も言ってたようにこれはあくまでも可能性の一つに過ぎないんだから、あの映像が全てだって考えちゃダメだ。とりあえず、それが起きるのは昼間みたいだから、そうならないように仕事中に対策を──」
その時、オフィスのドアがバタンと乱暴に開き、その場にいた全員がドアへ視線を向けた。すると、そこにはナイフを手に持ちながらにやにやと笑う男性の姿があった。
「え……な、なんで……!?」
「き、君は……捕まってるはずじゃ……!」
「捕まってる……ああ、あの馬鹿な弟の事か。俺がアイツにガキで遊ぶ方法を教えてやって、遊んだ相手の写真や動画を交換しあってたのに、ヘマをしてパクられるなんて本当に馬鹿だよな。
だが、そんな馬鹿でも弟だからよぉ……アイツが捕まるきっかけになった奴に対して復讐をしてやんないといけねぇんだよ。という事で……そこの女、今から死んでもらうぜぇー!」
突然現れた男性の姿に女性社員を含めた誰もが反応出来ず、女性社員へ向けて男性がナイフを煌めかせながら走り出す中、男性社員だけはハッとすると、同じように女性社員の元へ走り出した。
そして、男性のナイフが女性社員に襲いかかる前にその前に立つと、『フューチャーブレス』に嵌まっている宝石が照明の光を反射し、男性の目を照らした。
「ぐっ……こ、このクソ野郎がぁっ……!」
「させるか……先輩はとてもしっかりとした素敵な女性なんだ。お前達みたいなどうしようもない奴らなんかには指一本触れさせない!」
「君……」
「……ちっ、カッコつけてんじゃねぇぞ、このくそったれが! だったら、てめぇから殺って──」
そう言いながら男性がナイフを振りかざしたその時、オフィスのドアから何人もの警察官が中へと入ってきた。
「警察だ! 大人しく武器を捨てろ!」
「なっ、サツだと!? くそっ……捕まってたまるか! 捕まるくらいならいっそ──」
「させるか!」
男性社員は男性の手首に手刀を落とすと、痛みと衝撃で男性はナイフを取り落とし、その瞬間に警察官達は男性の確保を始めた。
その後、暴れる男性が男性社員達を口汚く罵りながら連行されていくと、残った警察官は証拠品であるナイフを保存したりオフィスにいる全員を落ち着かせながら事情聴取を行った。
そしてそれから数時間後、誰もが落ち着かない様子で仕事を終えて帰った頃、男性社員も女性社員と並びながら夕焼け空の下を歩いていた。
「はあ……まさかあの人の兄弟が復讐をしに来るなんて……」
「だよね。でも、君がいてくれたから、私はこうして無事に帰れてるわけだし、君には本当に感謝しないとなぁ……」
「あはは……あの時は先輩を助けたくて必死だっただけですよ。いつも先輩にはお世話になってますし、あんな人に先輩を傷つけられるわけにはいきませんでしたから」
「ふふっ、君にとってはとてもしっかりとした素敵な女性、なんだもんね。今までそんな風に言われた事無かったから驚いたけど、それ以上に照れちゃいそうだったよ」
「あ、あれは……まあ、先輩に対していつも思ってる事ではありますけど……」
「……そっか。ところで、君はもしかしてあんな風に誰かが襲ってくるって気づいてたの?」
「……え?」
男性社員が驚く中、女性社員はその様子を見ながらクスリと笑う。
「そのブレスレット、何か不思議な力を持った物なんだよね? そして、そのブレスレットの力であの後に起きる事を事前に知っていたから、すぐに対応出来た。そうだよね?」
「……はい。このブレスレットは『フューチャーブレス』という名前らしくて、これをつけた状態で宝石に触れると、触れた人の未来を教えてくれるんです。
ただ、このブレスレットが教えてくれた未来は可能性の一つみたいで、僕が教えられた未来は昼間に先輩が会社の入り口であの人に襲われる物でしたから、すごく驚きましたけどね」
「なるほど……」
「でも、どうして先輩はそれに気づけたんですか? たしかに僕の様子はおかしかったかもしれませんけど、このブレスレットが不思議な力を持ってるなんて中々気づけないと……」
「実は私も持ってるんだ、不思議な力を持ってる道具を」
そう言いながら女性社員はポケットの中から犬の形の『ポケットフレンズ』を取り出すと、その姿に男性社員は首を傾げる。
「これは……紙粘土で出来た犬、ですよね?」
「うん。これは『ポケットフレンズ』っていうみたいで、私とだけ念波で会話が出来る私だけの友達なんだ」
「そうなんですね……え、それじゃあもしかして先輩もあの女の子に会ったんですか?」
「道具と人間の橋渡し役だっていう子だよね。うん、私もあの子に会って、この子を貰ったんだ。それ以来、この子には色々な話を聞いてもらったり励ましてもらったりしてるから、だんだん仕事でも自信がついてきてたの」
「だから、最近元気になってたんですね」
「そう。でも……これからは君にも色々な話を聞いてもらおうかな。前々から君は頼りになると思ってたけど、今回の件で君の事をすごくカッコいいって思えたし、君とはもっと深い関係になりたいし……」
「……え? せ、先輩……それって……」
「……君が想像している通りの関係だよ。でも、まずはもっと君の事を知りたいし、これから一緒に何か食べに行こうか。助けてもらった分のお礼もしたいしね」
「……はい! 先輩、改めてこれからよろしくお願いします!」
「……うん、こちらこそよろしくね」
そして、男性社員と女性社員が肩を寄せ合いながら歩いていく中、その様子を橋渡し役の少女は安心した様子で見ていた。
「……うんうん、ラブラブで大変よろしい。それにしても……警察への通報が間に合ってよかったよ。あの子がメッセージを送ってきたから、すぐに通報をしてみたけど、それで正解だったみたいだね。
さて……良い物が見られたし、私は帰ろっと。二人とも、末長くお幸せに」
微笑みながら言った後、橋渡し役の少女はクルリと後ろを向き、そのままゆっくりと歩いていった。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。