第18話 ポケットフレンズ 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……ふぅ、これで終わり、と」
夕方ごろ、とある会社のオフィスで一人の女性が目の前のパソコンの画面を見ながら独り言ちる。オフィス内には他の社員の姿は無く、女性は周囲を軽く見回した後、少し寂しげにため息をつく。
「はあ……今日も一人か。まあ、他の人達はもう仕事を終えて帰ってたり他の課に行ってたりするから仕方ないんだけど、ここ最近は誰かと仕事帰りに飲みや食事なんて行けてないから少し寂しい気がするなぁ。あーあ……こういう時に一緒に話しながら帰れるような友達がいれば良いのに……」
女性が残念そうに呟いていたその時だった。
「お姉さん、少し良いですか?」
「え……?」
突然背後から聞こえてきたその声に女性が振り返ると、そこにはにこにこと笑うセーラー服姿の少女が立っていた。
「貴女は……誰? どこから入ってきたの?」
「私は……まあ、道具と人間の橋渡し役だと考えてください。ここには私が持っている道具の力で入ってきました。お姉さんと縁のある子がいるようだったので」
「私と縁のある……?」
「はい。お姉さん、何かお悩みって無いですか? 例えば……寂しい気がするとか誰かと話したいとか」
「……よくわかったね。見てもらってわかる通り、今ここには私達以外には誰もいなくて、これから帰るところだったんだけど、一人で帰るしかないの。でも、誰かと話したりどこかに寄ったりしながら帰りたくて……まあ、同僚達と仲が悪いわけじゃないんだけど、時間が合わない事が多くてね……」
「なるほど……それなら、この子がピッタリですよ」
そう言いながら少女が取り出したのは、中に何かが入っている四角い袋だった。
「これは……何? パッケージには『ポケットフレンズ』って書いてるようだけど……」
「この子はお姉さんだけの小さなお友達が作れる道具です。中は一見普通の紙粘土なんですけど、お姉さんが真心をこめながら形を作ってあげると、独りでに動き出し始めて、お姉さんとの間で念波による会話も出来るようになるんです」
「私だけの友達……という事は、名前の通りにスーツのポケットに入れていたら、仕事中に励ましてくれたり慰めてくれたりするって事?」
「はい。この子は基本的にお姉さんの言う事なら色々聞いてくれますから、動くのを止めて欲しいと思ったら言えば止めてくれますし、歌って欲しいと言ったらお姉さんが知ってる歌なら何でも歌ってくれますよ」
「なるほど……」
「そして、この子はお姉さんにプレゼントします。作った子は大切にしてあげて下さいね」
「え、でも……良いの? 別にお金はあるから、お代は払えるよ?」
その女性の言葉に橋渡し役の少女は笑みを浮かべながら首を横に振る。
「大丈夫ですよ。この子は御師匠様から渡しても良いと言われてる子なので、遠慮なくもらってください」
「そうなんだ……それじゃあありがたくもらおうかな。ありがとうね」
「どういたしまして。ただ、この子には注意点があるので、それだけは守って下さいね?」
「注意点……」
「はい。作った子は大切にして欲しいのはもちろんなんですが、作った子が何も悪くないのに友達を止めようとはしないで下さい。この子が何か悪さをしたりお姉さんに嫌な思いをさせたりしたら別に大丈夫ですけど、そうじゃないのに友達を止めようとしたら大変な事になりますから」
「大変な事……うん、わかった。何も悪くないのに友達を止めるつもりは無いけど、それは気を付けるね」
「ありがとうございます。それじゃあ私はそろそろ失礼します。お姉さん、自分だけの友達との毎日を楽しんで下さいね」
「うん」
女性が頷きながら答えた後、橋渡し役の少女は満足げな笑みを浮かべると、オフィスの入り口へと歩きだし、そのままドアを開けて出ていった。女性はそれを見送った後、渡された『ポケットフレンズ』をじっと見つめた。
「私だけの友達、か……中身は紙粘土みたいな物って言ってたから、そんなに重くないだろうし、ポケットに入れてても問題はなさそうかも。さてと、それじゃあ私だけの友達を作るために早く帰ろう。どうせ作るなら、しっかりと作ってあげたいし」
女性は微笑みながら『ポケットフレンズ』の表面を撫でた後、作業用の筆記具などと一緒に通勤用の鞄の中に入れ、帰るために自分の席を静かに立った。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。