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不可思議道具店  作者: 伊達幸綱
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第17話 リスタートダイアリー 後編

どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。

「あー、今日も人生が楽しいなぁ」


 ある日の昼頃、肩から鞄を掛けた一人の少年がにこにこと笑いながら道を歩いていた。その手には『リスタートダイアリー』が握られており、握る手の強さから少年が『リスタートダイアリー』を誰かに取られまいとしているのがハッキリと見てとれた。


「この前まで辛さしか無かったのに、この『リスタートダイアリー』のおかげで今は薔薇色の毎日を過ごせているのは本当に嬉しいなぁ。

 本当は失敗ばかりなのに、他の人からは全部成功してるようにしか見えないから、毎日誉められたり羨ましがられたりするし、もうこれは絶対に手放せないよ。でも、これの事を知ったら取ろうとする人がいるかもしれないし、何か対策を考えておかないと……」


 少年は不気味な表情でブツブツと呟きながら道を歩いていくと、やがて横断歩道へと差し掛かったが、考え事に夢中になっていたため、歩行者信号が赤だったのにも関わらずそのまま道路へと出てしまった。

 そして、周囲の人々の慌てたような声や自分に向かってくる車のクラクションでようやく自分の状況に気づくと、少年はハッとしながら『リスタートダイアリー』を開いた。


「まずい……えーと、これだ!

『今日は天気が良かったから散歩に行った』!」


 ページに書かれていた文章に触れると、少年の視界はぐにゃぐにゃと曲がりだした。そして、少年は自分が自宅の前に立っている事を確認すると、安心したようにふぅと息をついた。


「……危ない危ない。あのままだったら、車に轢かれて死んでたよ。となると、出掛けるのは危険そうだし、今日のところは家に──」


 その時、家のドアが開くと、少年の母親が顔を出し、安心したような顔で口を開く。


「よかった、まだいたわね。出掛けるならついでにお使いに行ってきてちょうだい」

「え……でも、僕は……」

「買ってきて欲しい物はこれに書いてるし、お釣りはおこづかいにして良いからお願いね」

「ちょ、お母さ──」


 少年の返答も待たずに母親が家のドアを閉じると、それに対して少年はイラついた様子で舌打ちをする。


「話くらい聞けば良いのに……まあでも、今度は車に気を付ければいいわけだし、さっさと行ってきて家にこもろう」


 少年は小さく息をついた後、お使いを終わらせるために仕方無さそうに歩き始めた。そして歩く事数分、少年の行く先で道路の工事をしているのを見ると、少年は大きなため息をついた。


「はあ……やっぱり工事してるか。仕方ない、ここは回り道……を……」


 その時、少年は何かに気づいたようにハッとした。


「……そうだ、さっきもそうやって回り道をしたんだ。そして、車に轢かれそうに……嘘でしょ、それじゃあ戻った意味がないじゃん……!」


 少年が焦った様子で頭を抱えると、その手から『リスタートダイアリー』がスルリと抜けたが、少年はそれには気づいていない様子で状況を打開するための策を考え始めた。

 しかし、いくら考えてもそれらしい案が浮かばず、少年の顔に焦りの色が浮かび始めた時、少年は何かを思いついた様子を見せた。


「そうだ……さっさと道路を渡ればいいんだ。そうすれば、轢かれる心配はない。よし、そうしよう……!」


 そう独り言ちる少年の顔はとても正気とは思えない物であったが、少年はそれが良い案だと信じてやまず、そのまま回り道をしながら走り始めた。そしてそれから数分後、その近くを救急車がサイレンを鳴らしながら走っていく中、残された『リスタートダイアリー』の元に橋渡し役の少女が現れると、少女は哀しそうな顔をしながら『リスタートダイアリー』を拾い上げる。


「……どうやら、彼は残念な結末を迎えてしまったみたいだね。彼みたいに油断したり慎重さを欠いたりしながら同じ道を進もうとすれば、どんなに過去に戻っても同じ結末を迎える。一度家の方に戻って、また別の道から行くか他の場所に行く道を選べば良かったのかもしれないけど、この子を置いてけぼりにしてる事にも気付けない程だとそれにすら気付けないか。

 さて……呼んだ救急車はそろそろ現場についただろうし、彼が亡くならない事を祈りながら私は帰ろうかな」


 そう言うと、橋渡し役の少女は『リスタートダイアリー』を手にしながらゆっくりと歩き始めた。

いかがでしたでしょうか。

今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

それでは、また次回。

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