第2話 リモートガン 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「お前……またしくじったのか!」
よく晴れた日の昼下がり、ひっそりと立つビルの明かり一つ点いていない暗い室内に二人の男性がいた。
一人は眉間に刀傷がついた紫色のスーツ姿の大柄な体格の男性、もう一人はひょろりとした体格の黒色のスーツの男性で、黒色のスーツの男性が怯えたような表情で項垂れる中、紫色のスーツの男性の表情は怒りの色に染まっていた。
「この前もあと一歩のところでターゲットを逃がし、その前も待ち伏せしてるのをターゲットに気づかれて危うく返り討ちに遭いそうになる……お前、本当に殺し屋としてやっていく気はあるのか?」
「……あります。ボスにはそう見えないかもしれませんが、俺はボスに強い感謝を抱いていますし、ボスがいたから俺は今もこうして生きているんです」
「……そういえば、俺とお前が初めて出会ったあの日、お前は公園のブランコに座りながら絶望しきった目をしてたな。会社をリストラされて隠れて浮気してた女房から家を無理やり追い出され、あのまま放っておいたら本当に首でも吊ってそうだった」
「はい……でも、ボスはそんなに俺に声をかけてくれるだけじゃなく飯まで食わせてくれて……仕事が殺し屋というのを聞いて少しビビりはしましたけど、俺の命を救ってくれたボスには本当に感謝してますし、ボスの助けになりたいと思ったんです」
「その気持ちは嬉しいが……お前、本当は人を殺すどころか悪事の一つも出来ない程に良いやつだからな。この前もターゲットの尾行中なのにも関わらず、横断歩道を渡れずに困ってた婆ちゃんを助けてただろ」
「あ……そ、それは……」
「まあ、ウチで抱えてる殺し屋の中で一番出来が悪いとはいえ、今さらお前の事をほっぽり出す気もない。ただ、殺し以外の方法でお前が出来る事を探しておきたいところだな……」
ボスが顎に手を当てながら考え込み、その姿に殺し屋の男が表情を暗くしていたその時だった。
「おじさん達、少しお話良いですか?」
「え……?」
「ん……?」
二人の視線の先にはあどけない笑顔を浮かべる一人の少女がおり、よく見るとその手には少女の容姿には似つかわしくない黒い拳銃が握られていた。
「おいおい……嬢ちゃん、どっから入ってきたんだ? ここはお前さんみたいな子供が来るところじゃ──」
「あ、わかってますよ。表向きは色々な事を請け負う何でも屋みたいな物で、その裏では依頼を受けて殺し屋家業を営んでるって」
「そうか……それじゃあ、お前もどこかの組や組織から送り込まれてきた刺客って事か?」
「いえ、私は人間と道具の橋渡し役です。それで、今回ここに来たのはこの子がこちらのおじさんと絆を結ばれたからなんです」
少女が殺し屋の男を指差すと、殺し屋の男が心から驚いた様子を見せる中、ボスは少し警戒した様子で少女に話しかける。
「……この子ってのは、その手に持ってる拳銃だな。つまり、お前さんは武器商人と考えて良いのか?」
「今回はこの『リモートガン』を持ってきてましたけど、普段からこういう物を持ってるわけじゃないですよ。私は御師匠様が作った道具の中で店頭には並べられない道具を許可をもらって持ち歩き、この子達が興味を持った人に渡すのが役目ですから」
「店、か……まあ、どんな店かはさておくとして、その『リモートガン』っていうのはどういう物なんだ?」
「ボス、この子の話を聞く必要なんて──」
「いや、せっかくお前が使えそうなブツが自分から来てくれたんだ。俺も半信半疑ではあるが、話くらいは聞いてみたい」
「……わかりました。でも、俺が拳銃なんて持ってもいつものようにターゲットを逃がしてしまいそうな気がするんだけどな……」
殺し屋の男が自信無さげに言っていると、橋渡し役の少女はクスリと笑う。
「大丈夫ですよ。この子はターゲットの写真か絵があれば良いですから」
「写真か絵……?」
「ほう、そいつはどういう事だ?」
「この子は撃ちたい相手の写真か絵に銃口を向けて、引き金を引くだけで向けた箇所をその場にいながら撃ち抜けるんです。ただ、一発撃つため使用者の中で大切にしてる物が一つ無くなりますけどね」
「大切にしてる物……それって何なんだ?」
「それは私にもわかりません。大切な物なんて人によって様々ですから。それで、どうしますか? この子の力、借りてみます?」
橋渡し役の少女が問いかけ、殺し屋の男の視線が『リモートガン』に注がれたが、ボスの表情はどこか浮かない様子だった。
「……なあ、その弾の代わりにした物っていうのは、後から取り戻せるのか?」
「出来ますよ。この子を壊すか銃口をその場にいる誰かに向けて引き金を引けば良いんです。もっとも、それまでにこの子で殺した人は生き返りませんけどね」
「殺し屋が殺した相手の蘇生を望むなんてありえねぇよ。さて……おまえはどうする? たしかに便利だが、正直な事を言うなら俺は手を出さねぇ方が良いと思うが……」
浮かない様子のままでボスが問いかけたが、殺し屋の男は静かに首を横に振る。
「……いいえ、俺はコイツに賭けたいです。その話が本当なら俺はようやくボスの助けになれますから」
「……そうか。んで、コイツはいくらなんだ? そんなにイカれた力を持ってるなら、それなりの値はするんだろう?」
「いえ、お代は結構ですよ。先程も言ったようにこの子は店頭には並べられない子なので、非売品みたいな物なんです」
「へえ……ますます怪しいブツにしか見えねぇな」
「けど、もしも本当なら俺は誰よりも優秀な殺し屋になれますし、偽物でも損はしてない上に脅し用の拳銃として使えば良いんで問題ないですよ」
「はあ……まあ、そうだな。おい、嬢ちゃん。とりあえず礼は言っておくが、そういう理由でもむやみやたらにこんなところ来るんじゃねぇぞ」
「はーい。それじゃあこの子はお渡ししますので、大事にしてあげて下さいね」
そう言いながら橋渡し役の少女は殺し屋の男に『リモートガン』を手渡すと、そのまま扉の方へと歩いていき、スーッと扉をすり抜けていった。
「と、扉をすり抜けた……!?」
「なるほど。開ける音がしなかったのはそういうわけか。さて、その拳銃だが……欲しいと言ったのはお前だからそのまま持ってろ。本音を言えばお前にも使わせたくないが、とりあえず話が本当か確かめたいからな」
「わかりました。よし……次に依頼が来たらコイツの力を早速試そう。今度こそターゲットを絶対に仕留めてやるぞ……!」
殺し屋の男がやる気に満ちた様子で『リモートガン』に視線を向ける中、その姿にボスは少し安心した様子で息をついた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。