第16話 テンプテーションマイク 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……はあ、今日も良くなかったなぁ」
夕暮れ時、学生服姿の少年がため息をつきながら暗い表情で街中をとぼとぼと歩いていた。
「生徒会長に声をかけられて副会長になったは良いけど、カリスマ性の溢れる生徒会長とは違って、僕は周囲からナメられてばかり……このままじゃ生徒会長の顔にも泥を塗る事になっちゃうよ……」
学生服姿の少年が今にも泣き出しそうな顔でため息をついていたその時だった。
「そこの君、ちょっと良いかな?」
「え……?」
学生服姿の少年が立ち止まりながら不思議そうに背後を振り返ると、そこにはにこにこと笑うセーラー服姿の少女がマイクを手に持ちながら立っていた。
「君は……?」
「私は……まあ、道具と人間の橋渡し役とでも考えてくれれば良いよ。ところで、なんだか落ち込んでたみたいだけど、何か悩み事?」
「え……う、うん……僕、これでも生徒会の副会長なんだけど、カリスマ性や魅力が無いから、このままだと生徒会長に迷惑かけてしまうなと思って……」
「なるほど……だから、この子が声をかけてきたんだね」
「この子って……そのマイク?」
学生服姿の少年がマイクを指差しながら訊くと、橋渡し役の少女は笑みを浮かべながら頷く。
「うん。この子は『テンプテーションマイク』という名前で、この子を使って話した言葉は聞いた人をみんな魅了するっていう物なんだ」
「聞いた人を全員……」
「そう。そして、この子は君にプレゼントするよ。どうやらこの子は君に力を貸したいみたいだからね」
「え、でも……良いの?」
「うん、もちろん。この子は店頭に並べられなかったり試作品だから渡しても良いって言われたりしてる子だからね。それに、この子が君に力を貸したいって言うなら、それを邪魔するつもりもないしね」
「そっか……それなら、ありがたくもらう事にするよ。どうもありがとう」
「どういたしまして」
そして、学生服姿の少年が『テンプテーションマイク』を受けとると、橋渡し役の少女は笑みを浮かべたまま静かに口を開いた。
「さて……それじゃあその子を使う上での注意点を話すね」
「あ、うん」
「その子を使って話すと、それを聞いた相手は君に魅了され、好意を抱くようになるんだけど、その回数が増えるに連れてその気持ちも強くなり、徐々に言動もおかしくなっていくの。
一応、マイクのスイッチを逆に入れて喋れば効果は解けるけど、念のため特定の相手に対して何度も使わないようにしてね。そうじゃないと大変な事になるから」
「う、うん……」
「後、それが効かない人もいるんだけど……まあ、それに関しては特に考えなくて大丈夫だよ」
「大丈夫って……まあ、危険じゃないなら良いけど……」
「さて、それじゃあ私はそろそろ行くね。その子の事、大切にしてあげてね」
「うん、わかった」
学生服姿の少年が頷きながら答えると、橋渡し役の少女は去っていき、それを見送ってから少年は手の中にある『テンプテーションマイク』に視線を落とす。
「人を魅了出来るマイク……歌手だったらピッタリだけど、僕に使いこなせるのかな……? まあ、とりあえず試してみて何かに使えたら喜ぶ事にして、ダメだったとしてもそれはそれで良い事にしよう。さて、それじゃあ僕もそろそろ帰ろう。生徒会の事について会長と今日も話し合いをしないといけないし」
そう言うと、学生服姿の少年は『テンプテーションマイク』を手に持ちながら歩き出したが、その顔はどこか嬉しそうだった。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。