第15話 ディメンションハット 中編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「……ふぅ、とりあえず今日の練習はここまでかな」
鮮やかな青色が頭上に広がり、辺りから小鳥の囀りが聞こえる昼頃の公園。ベンチに座る女性は額に浮かぶ汗を拭うと、手に持っていたマジックの道具を横に置く。
「はあ……でも、もう少し頑張らないとなぁ。腕前はまだまだだし、見せ方ももう少し研究が必要。こんな事じゃ、他のマジシャンにも人気にはなれないし、色々頑張らないと……」
女性は難しい顔をしながら腕を組んでいたが、ふと何かを思い出したような表情を浮かべると、足元に置いていたトランクを開け始めた。
そして、その中から黒いシルクハットを取り出した後、両手で持って回したり覗き込んだりしながらシルクハットを眺める。
「……そういえば、このシルクハットを買ったんだったわ。たしか『ディメンションハット』という名前で、この中には異次元が広がっているから、これよりも大きい物でもしまえるんだったわね。
これよりも大きい物か……今持ってる物だとこのトランクくらいだけど、とりあえずしまってみましょうか。本当にしまえるなら、それはそれで見てみたいし」
女性はワクワクした様子で『ディメンションハット』を見つめた後、静かに横に置き、トランクを持ち上げた。表面が銀色に輝くトランクは見るからに重く、大きさも『ディメンションハット』の数倍はあったため、その大きさの違いに女性は少し不安げだったが、程なく覚悟を決めると『ディメンションハット』にトランクを近づける。
すると、一切引っ掛かる事なくトランクは『ディメンションハット』の中へと入っていき、女性が驚いている内にすべて吸い込まれた。
「……ほ、ほんとに入っ──」
「すっごーい!」
「え……?」
突然聞こえてきた声に女性が驚いていると、いつの間にか近くにいた少女は目を輝かせながら『ディメンションハット』に視線を向けていた。
「今、この中におっきい物が入ってった! お姉ちゃん、もしかして魔法使いさん!?」
「……まあ、正確には違うけどそんなところかな。そうだ……今からさっき入れた物を出してみせるね」
「ほんと!? みたいみたーい!」
「ふふ、それじゃあいくよ。1、2……3!」
中にあるトランクを思い浮かべながら掛け声と共に『ディメンションハット』の中に手を入れ、持ち手を掴みながら出してみせると、少女の目の輝きは更に増した。
「わあ……ほんとに出てきた! こっちのがおっきいのに出たり入ったりするなんて……お姉ちゃん、他にも何か魔法は使えるの?」
「少しだけね。今のに比べたらすごくないかもだけど……よかったら見てみる?」
「うんっ!」
少女の声に引き寄せられ、公園にいた人々が物珍しそうに近寄ってくる中、女性は少し緊張した様子だったが、咳払いをしてすぐに気持ちを切り替えると、少女を始めとした観客達の前でマジックを披露し始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。