第15話 ディメンションハット 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……うん、今日もみんな元気みたいでよかった」
ある日の事、少女は『不可思議道具店』の店内にある道具達を見回っていた。そして、道具達の様子を目視と聞き取りで確認し、満足げに頷いていた時、店の入り口がゆっくりと開き、ドアを押し開けながら一人の女性が不思議そうに店内へと入ってきた。
「あ、いらっしゃいませ。『不可思議道具店』へようこそ」
「『不可思議道具店』……あの、私街を歩いていたらいつの間にかこの辺りに来ていたんだけど、ここってどこなのかしら……?」
「ここは現世から隔絶された場所にある『不可思議道具店』というお店で、私の御師匠様が作った様々な道具達を販売しているんです」
「様々な道具達、か……それじゃあ、マジックに使う道具もあったりするの?」
「ありますよ。あ、もしかして……お姉さんってマジシャンの方ですか?」
「ええ。まだ全然有名じゃないけど、時々何かの集まりに呼ばれてはマジックを披露しているの。ただ、どうにも新しいマジックが思いつかなくて、どうしたら良いかなと思いながら街を歩いていたら、ここに来ていたのよ」
「なるほど。マジックの道具なら……あ、この子が助けになれるかもです」
そう言って少女が持ってきたのは、一つの黒いシルクハットだった。
「シルクハット……たしかにマジックではよく使うけど、それなら私も持ってるわよ?」
「この子はただのシルクハットじゃないんです。『ディメンションハット』という名前で、この子の中には異次元が広がっていて、この子よりも大きな物でもしまう事が出来るんですよ」
「へえ、それはすごいわね」
「しまった物は頭の中で念じながら手を入れれば好きなタイミングで取り出せますし、しまっている間は入れた直後と同じ状態を保っているので、お出かけの時に荷物が多くなってもこの子の中にしまっておけば重くないですし、帰ってきたらすぐに取り出せるので、日常生活でも活躍してくれますよ」
「たしかに……因みに、そのシルクハットはおいくらなの?」
その問いかけに対して少女が値段を答えると、マジシャンの女性は少し驚いた様子を見せた。
「あら、そんなに安いのね」
「はい。それで、どうですか? この子に興味はわきました?」
「……そうね。他のマジシャンが出せない程の物をシルクハットから出してみせたら、絶対にウケると思うし、ここに来たのも何かの縁だと思うから頂こうかしら」
「わかりました。それじゃあお代を──はい、ちょうど頂きました。レシートはどうしますか?」
「ううん、大丈夫。ところで……このシルクハットは被る事は出来るのよね? そのまま被ったら、私まで異次元に行っちゃいそうだけど……」
マジシャンの女性が不安そうに『ディメンションハット』を見る中、少女は微笑みながら首を横に振る。
「あ、それは大丈夫ですよ。この子、人間は入れない主義みたいなので、被る時や物を出し入れする時は使用者やそれ以外の人が入っちゃわないようになってるんです」
「なるほどね。それじゃあ私はそろそろ失礼するわ。早速このシルクハットがどれだけの物を入れられてどうやってマジックに使えば良いか考えたいし」
「わかりました。お仕事、頑張って下さいね」
「ええ、ありがとう。それじゃあ、またね。可愛い店員さん」
「はい!」
マジシャンの女性が頷いてから入り口を開けて外へと出ていった後、橋渡し役の少女はふぅと小さく息をつく。
「あのお姉さん、『ディメンションハット』と相性はぴったりみたいだし、これからずっと仲良しだったら良いなぁ。さてと、それじゃあ私も御師匠様が帰ってくるまでにお店と外の掃除を終わらせちゃおうっと」
少女は笑みを浮かべながら言った後、軽く店内を見回してから掃除用具を取りに外へ行くために入り口へ向かって歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。