第14話 守護臣 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「ふんふふーん♪」
よく晴れたある日の午後、少年は嬉しそうな様子で鼻唄を歌いながら道を歩いていた。
「最近、不幸な目に遭わないからかすごく毎日が楽しいなぁ。変なところでつまづいて転んだり犬から吠えられたりしないし、本当に『守護臣』のお陰だよ」
そう言いながら少年はポケットから『守護臣』を取り出すと、その勇ましい姿を見ながら微笑む。
「本当なら君とお話しして、その上でしっかりとお礼を言いたいけど、流石にそれは出来ないもんね。まあ、これをくれたお姉さんならその方法を知ってるのかもしれないけど、あれから会えてないし……あまり期待しない方が良いのかな……」
そんな事を少年が独り言ちていたその時、頭の中に落ち着いた男性の声が響くと、少年は嬉しそうに頷く。
「……うん、この先は烏が多いから、回り道が良いんだね。わかった。それじゃあこっちの道を行こうかな」
そう言って、少年が右の道に向かって歩き始めると、その先には横断歩道があり、信号が赤だった事から、少年は静かに足を止めた。
「さてと、早くお使いを済ませないと──って、え? ここは危険だから離れた方が良いって? でも、こっちは歩道だし、車道からも少し離れてるから車がぶつかってくる可能性はないと思うけど……」
『守護臣』からの警告に少年が疑問を抱いていたその時、少年の後ろからボールが跳ねてくると、それを追うように一人の少女が少年の隣を通っていき、そのまま車道に飛び出すと、少年はその光景に驚いた。
「た、大変だ……! 今すぐ助けないと!」
少年はすぐさま自分も車道へ出ようとしたが、それを制止するように『守護臣』の声が少年の頭の中に響き渡った。
「飛び出してはいけないって……そんな事言ってられないよ! 君が僕を守ってくれようとしてるのはわかってる。でも、僕だけが安全なところにいるのに目の前で誰かが傷つくのはやっぱり嫌だよ!」
少年は哀しそうに『守護臣』の声に対して答えると、そのまま車道へ飛び出し、迫り来る車を前にしてしゃがんだままで逃げ出せずにいる少女に覆い被さるようにしながら目を瞑った。
しかし、いくら待っても車がぶつかって来ない事に疑問を抱き、少年が目を開けながら背後を振り向くと、そこには車を片手で押さえている鎧武者の姿があり、その姿に既視感を覚えた少年は驚きながらも鎧武者に声をかけた。
「もしかして……君は『守護臣』なの……?」
「…………」
少年からの問いかけに鎧武者は何も答えず、そのまま静かに姿を消すと、車の運転手や周囲にいた人々は一斉に少年達に駆け寄ったり警察へ通報したり、と辺りは騒がしくなった。
それから数時間後、事情聴取などを終えた少年は駆けつけた家族と共に家へと帰ったが、なんだか落ち着かなくなり、両親に断りを入れてから外へと出た。
そして、玄関の前でポケットの中に入れていた『守護臣』を取り出してみると、『守護臣』は首や腕などが取れており、その姿に少年は哀しそうに微笑んだ。
「……やっぱり、あれは君だったんだね。僕達が車に轢かれないように守ってくれてありがとう。でも……僕はまだまだ君と一緒に歩みたいよ。このままお別れなんて嫌だよ……!」
涙をポロポロと溢しながら少年が『守護臣』を大事そうに握りしめていたその時、少年の前に一人の人物が立った。
「こんばんは」
「え……あ、お姉さん……」
「……その子からメッセージが来たから来てみたんだけど、だいぶバラバラになっちゃってるね……」
「うん……でも、僕は『守護臣』とお別れなんてしたくないよ。このまま頼りきりになるのはよくないし、今回『守護臣』の警告を無視しちゃったからこんな事になったけど、僕は……『守護臣』とこれからも一緒にいたいんだ……!」
「……それは大丈夫だよ。御師匠様なら直してくれるはずだし、この子も君の事を放っておけない相手だって思ってるようだしね」
「『守護臣』が……」
少年が手の中の『守護臣』に視線を向ける中、橋渡し役の少女は静かに頷く。
「そう。この子は所有者を主として認め、主が道を踏み外したと感じたら、戒めのために夢の中に出てきては刀で切りつけてくるけど、基本的には所有者の命を守るためなら自分の身すら厭わない子なんだ。
そして、今回も君に対して警告をしたけど、それはあくまでも君の命を守りたくてした事だから、それだけはわかってあげて欲しいの。
まあ、これからは君だけじゃなく、君にとって大切な人も対象にしてもらうし、ただ警告をするんじゃなく何か解決策も提案するようにしてもらうけどね」
「お姉さん……」
「という事で、とりあえずその子は預かるね。直ったらすぐに渡しに行くけど、それまでは君に一人で頑張ってもらう事になるかな……」
「……大丈夫です。色々痛い思いとか辛い事とかもあると思いますけど、『守護臣』に頼ってばかりじゃなく、僕自身も強くならないといけませんから。だから……平気です」
「……ふふっ、今の君、すごくカッコいいよ。私が同じくらいの歳だったら好きになってたかも……なんてね。それじゃあその子は預かるね」
「わかりました」
橋渡し役の少女は少年から『守護臣』を受け取ると、別れの言葉を口にしてから夜の闇へと消えていき、その姿を見送りながら少年はどこか大人びた表情を浮かべた。
「……『守護臣』、君が戻ってくるまでに僕は強くなるよ。君が僕を主として認めてくれるなら、僕もしっかりと強くなりたいし、君が誇れるような存在になりたいから」
少年は軽く拳を握りながら独り言ちた後、空をゆっくりと見上げ、再び『守護臣』と共に過ごせるようなった自分を想像してから家の中へと戻っていった。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。