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不可思議道具店  作者: 伊達幸綱
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第13話 ヒストリーオルゴール 前編

どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。

「……はあ、どうしたら良いんだ……」


 人気の無くなった夜、公園のベンチにヘアゴムで長い髪を後ろで一本に纏めた男性が俯きながら座っていた。その傍らには、何枚もの五線譜が置かれていたが、音符は一切書かれていなかった。


「新しい曲を作らなければならないが、まったく良い案が浮かばない……はあ、何か曲を思いつく良い方法でも無いものか……」


 男性が暗い表情でポツリと呟いていたその時だった。


「ねえ、そこのお兄さん」

「ん……?」


 突然聞こえてきた声に男性が不思議そうに顔を上げると、そこにはにこにこと笑いながら男性を見ている少女の姿があり、その手には小さな木箱を持っていた。

 男性は声をかけてきたのが不審な人物などでは無かった事に安堵した後、少女に対して優しく微笑む。


「こんな時間に女の子が一人でいるなんて危ないよ。家はこの近くなのかい?」

「家は少し離れたところですけど、護身用の道具はあるので大丈夫です。それでお兄さん、なんだか悩んでいるようでしたけど、どうしたんですか? もしかして、その傍にある五線譜が何か関係してますか?」

「……まあね。僕はこれでも作曲家なんだけど、新しい曲を作れなくて困っていたんだ。仕事の締切はもうすぐだというのに、一小節も浮かばなくてね……」

「なるほど……だから、この子がついてかせてほしいって言ってたんだ」

「この子って……その木箱がかい?」


 作曲家の男性が少女の手の中の木箱を指差すと、少女は頷きながらにこりと笑う。


「はい。この子は『ヒストリーオルゴール』という名前で、蓋を開けると、開けた人にとって印象深かった出来事の内の一つをイメージした曲を奏でてくれるんです」

「印象深かった出来事……」

「そうです。お兄さんもこれまでにしてきた成功や失敗、誰かとの出会いや別れ、そういった様々な出来事があるはず。この子はその人にとって今一番合っている出来事を選び、そのイメージから曲を奏でてくれるんですよ」

「なるほどね。作曲家として、このオルゴールの奏でる曲には興味があるかな」

「そう言ってもらえて嬉しいです。という事で、この子はお兄さんにプレゼントしちゃいます。大切にしてあげてくださいね」

「え、良いのかい? そんなにすごい物なら、流石にお金は払うよ」


 男性がそう言いながら財布を取り出そうとしたが、少女はそれを手で制しながら首を横に振る。


「お金は良いですよ。この子は店頭に並べられなかったり試作品だから渡して良いって言われたりしてる子なので」

「そうか……まあ、そういう事ならありがたく受け取るよ」

「はい。ただ、この子にはちょっとした注意点があるので、それだけは守って下さい」

「注意点?」

「この子には曲のリクエストや批判はしないで下さい。この子はあくまでも自分がイメージした曲をその時のお兄さんの気分などから判断して奏でるだけなので、リクエストには応えられないですし、曲を作り直す事も出来ないので」

「なるほど……わかった、それは気を付けるよ」

「ありがとうございます。それじゃあ、この子はもうお兄さんの物です」


 そう言いながら少女は『ヒストリーオルゴール』を手渡し、作曲家の男性がそれを受け取ると、少女は満足そうな顔で別れの言葉を口にし、その場を立ち去っていった。

 そして、残された男性はそれを見送った後、手の中にある『ヒストリーオルゴール』に視線を落とした。


「……曲で悩んでいたら変わった出会いをしたもんだな。ただ、このオルゴールの奏でる曲を聞いたら、何か新しいイメージが浮かぶかもしれないし、家に帰ったら早速聞いてみるとしようか」


『ヒストリーオルゴール』の蓋を軽く撫でながら男性は独り言ちた後、ベンチから静かに立ち上がり、自宅へ向けてゆっくりと歩き始めた。

いかがでしたでしょうか。

今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

それでは、また次回。

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