エピローグ
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
現世から隔絶された空間に建つ世にも不思議な道具を扱う道具店、『不可思議道具店』。その店先では、よく晴れた綺麗な青空の下で店の作業着でもある和服に身を包んだ『導き手』が竹箒で枯れ葉を掃き、そのそばでは『繋ぎ手』がその様子を眺めていた。
「ふぅ、やっぱりここでの掃き掃除はキリがないな。掃いても掃いても枯れ葉が減らないし」
「ここは特別な空間だから、すぐに葉っぱも増えるんだよね。なんだかそう簡単には終わらせないぞ、って言われてる気分になるよね」
「言われてる気分……その言い方だと、流石に植物とは話せないんだな」
「そういう事を助けてくれる道具はいるから、力を借りればここの木々と話は出来るよ。力、借りてみる?」
「いや、別に話したいわけじゃないし、こうやって掃き掃除をしてる時は気持ちも落ち着くから大丈夫だ。それに、なんでもかんでも道具に頼るのが良いってわけでもないからな」
箒を動かす手を止め、『繋ぎ手』に顔を向けながら『導き手』が軽く微笑んで答えると、『繋ぎ手』は一瞬驚いたような顔をしてから少し嬉しそうな笑みを浮かべる。
「流石はお兄さんだね。いやー、流石のイケメンだ。惚れちゃいそうだよ」
「またそんな事を言う。そんな事ばかり言ってると、変な勘違いされていらないトラブルに巻き込まれるぞ?」
「前も言ったようにお兄さんかクラスの子にしか言ってないから平気だよ」
「はいはい」
「それに、前と違って今は本音だしね」
「……そっか。この前の件でお前も異性との関係について少しずつ考えられるようになってきたんだな」
「うん、そうだね。無理やり性的な関係を結ばされそうになった事でだいぶ心が傷ついていたけど、お兄さん達との関わりや元許嫁の彼とのちゃんとした決別で少しは吹っ切れた感じかな」
そう言う『繋ぎ手』の顔は悩みがない事がハッキリとわかる程に晴れやかであり、太陽の日差しを浴びながら小さく微笑むその姿を『導き手』は少しボーッとした様子で見つめていた。
その姿に『繋ぎ手』は気づくと、少し驚いたような顔をしてから悪戯っ子のような笑みを浮かべながら近づき、『導き手』の額を人差し指で軽く小突いた。
「えいっ」
「いたっ……な、なにするんだよ?」
「この超絶美少女に見惚れるのは良いけど、あんまり見られると私の顔に穴が空いちゃうよ?」
「普通、自分で超絶美少女って言うか? けどまあ、今の『繋ぎ手』の姿がいつもより可愛く見えたのは間違いないよ。前々から『繋ぎ手』はこれまで会った女子の中では可愛い子だとは思ってたけど、色々な事が終わってスッキリした顔をしてる今の方がもっと可愛く見えたからな」
「お兄さん……えへへ、そんな事を言うと照れちゃうよ……」
「思う存分照れとけ。そういえば、向こうの二人はどうなんだろうな」
「向こう……ああ、『救い手』とお兄さんの元コピー体だね」
『繋ぎ手』の言葉に『導き手』は頷く。
「向こうも別に付き合い始めたとかは聞かないけど、人間とは違う存在だった前とは違って、今は一人の人間同士で異性同士だから、少しずつ意識はしてるのかな」
「それはありそうだね。前々からお互いの恋愛観みたいなのは一致していたみたいだし、お互いに相手の事は恋人として理想の存在だと考えていて、向こうの妹ちゃんとマスターも二人が恋人になるのは良い事だと考えていたみたいだから」
「ああ、そういえばこの前みんなで行った時にマスターが言ってたな。その時、マスターから『救い手』達を匿っていた事やそれを黙っていた事を謝られたけど、全部終わった今だとあまり気にしてなかったよな」
「うん。『救い手』をまだ味方として思えてなかった頃にそれを知ったら、マスターに対して少し不信感を持っていたかもしれないけどね。
『救い手』が知らず知らずの内にあのお店まで来てたのは、やっぱり心のどこかであのお店を心と体を休められる場所だって考えていたからだろうし、そんな『救い手』の姿を見たらマスターも助けてあげたいと考えるのは不思議じゃないよ」
「だな。でも、神様の力であの三人をマスターの遠い親戚にした上に俺達と同じ学校に通わせる事にしたのは驚いたな。それに、俺達とも血縁関係がある事にしてたし」
「あはは、そうだね。クラスのみんなや先生も驚いてはいたけど、すぐに受け入れてはくれたし、むしろあっちの三人の方がみんなの適応力に驚いてたかも」
「それはあるな」
『導き手』が笑いながら答えた後、『繋ぎ手』は軽く空を見上げながらポツリと呟いた。
「……お父さんも今は幸せそうだし、良い人達と出会えて良かったなぁ」
「ああ、本当の父親か。たしかに幸せそうだったよな。前に職場に様子を見に行った時、女の子を連れた女の人と仲良く話していて、アイツらからも度々食事したり外出したりしてるようだったって聞いてるから、このまま結婚なんて事も不思議ではないな」
「そうだね。前のままだと、『救い手』が考えていたようにまた自分の子供の事を考えすぎて相手を他の誰かを犠牲にしてでも子供の幸せのために行動しようとしたりいざという時には強く言えなくて流されたりしたかもしれないけど、今はちゃんと自分という物を持っていて、子供の意見も尊重してるようだから、大丈夫なはずだよ」
「そっか。因みに、このままだと将来的にはあの二人はお前の義母と義妹になるわけだけど、『繋ぎ手』も一緒に話したり食事したりするのか? それくらいは別に問題ないって俺達も考えてるけど」
「うーん……お父さんからも出来るならそういう機会を作ってほしいって言われてるし、考えておこうかな。私だけじゃなく、『救い手』から見ても親類縁者って事になるから、二人で少し話してみるよ」
「わかった」
「でも、その時はお兄さん達も一緒だったら嬉しいな。私と『救い手』の二人でももちろん良いけど、お兄さん達だって私達から見れば大切な家族だし、お父さんもお兄さん達とはちゃんと話したいって言ってたしね」
「そうだな。もしもお誘いが来たら、その時はみんなで相談するか」
「うん!」
『繋ぎ手』が嬉しそうに笑いながら大きく頷くと、『導き手』はその姿に微笑んでから軽く空を見上げた。
「そういえば、ボスさん達との縁も中々不思議なもんだよな。初めは『リモートガン』の縁者と関わって、その後にあの人の実子の女の子が『アンサーミラー』の縁者だった上に『デヴィネイションフラワー』の縁者があの人達と関わりを持って、その後も『バインドチョーカー』や『ライフバッテリー』の縁者も会社の人の中にいたし、こういうのって結構珍しいんじゃないか?」
「うん、だいぶ珍しいね。道具の縁者同士はお互いに惹き付け合いやすい傾向はあるようだけど、あそこまで縁者が集まってるケースは初めてだよ。これが物語かなにかだったら、これから道具達の力も借りた新しい何かが始まるところだろうしね」
「だな。それに、『バインドチョーカー』も『救い手』の手で注意点を無くしたから好きな時に外せて死の危険も無くなったわけだし、あの人達もちゃんとした恋人として幸せになれるだろうな」
「『バインドチョーカー』の力がなくても、もう二人はラブラブだったからね。二人ともいい人で娘さんやボスさんも気の良い人達ばかりだし、あの人達もこれから希望に満ちた日々を送ると思うよ」
「ああ、そうだな」
『導き手』が微笑みながら答えていたその時、二人の間を一陣の風が吹き抜け、二人が目を瞑る中、掃いた枯れ葉は風に吹かれて宙を舞い、二人は枯れ葉の雨が降り注ぐ中で目を開けてお互いを見つめ合った。
「……ねえ、お兄さん」
「……なんだ?」
「他の人達の幸せを願ったり喜んだりするのも良いけど、私達もこれを機に幸せになってみる?」
「幸せにって……そういう事か?」
「うん、そういう事。さっきも言ったようにお兄さんに惚れちゃいそうっていうのは本音だし、みんなと一緒に助けに来てくれた時は本当に嬉しかったし、改めてお兄さんはかっこいいなって思えたの。だから、そういう関係になりたいなら私は大歓迎だよ?」
「……俺も『繋ぎ手』の事を可愛い子だと思ってたのは間違いないし、ドレス姿の『繋ぎ手』はいつもの元気な姿と違って可愛らしさに溢れていて、そんな状況じゃないってわかってても結構ドキドキしてたんだ。だから、俺もそういう関係になるなら大歓迎だ」
「お兄さん……」
「だけど、俺はもう少しこの関係を楽しんでみたい。『繋ぎ手』と恋人になって、結婚をしてちゃんと子供まで出来て幸せな家庭を築くっていうのも良いけど、こんな風に一緒に掃除をしながらなんて事無い話をしたり縁者を探して色々なところに行ったりする大切な家族ではあるけど、友達同士で少しお互いに意識もしている不思議な関係。このとても貴重で幸せな関係を俺はもう少し味わいたいんだ。『繋ぎ手』、お前はどうだ?」
『導き手』からの問いかけに『繋ぎ手』はクスリと笑ってから静かに頷いた。
「うん、私も同感。たしかに恋人になって、お兄さんと夫婦になって二人の間に生まれた子供も交えた楽しい毎日を過ごすのは良さそうだけど、お兄さんが言うようにこの関係はとても貴重で心地よいし、私ももう少し続けてみたいな」
「わかった」
「でも、私がお兄さんの事を好きっていうのは証明しておくね」
「え?」
『繋ぎ手』の言葉に『導き手』が疑問の声を上げる中、『繋ぎ手』は軽く頬を赤くしながら爪先で立ち、再び風が吹いて枯れ葉が舞い散る中で自分の唇を『導き手』の唇に押し当てた。
「んっ……」
「んむ……ぷはぁ。ねえ、私の好きは伝わった?」
「……バッチリな。『繋ぎ手』はどうだ?」
「うん、私もバッチリ受け取ったよ。それにしても、ファーストキスをお兄さんにあげちゃったし、これは別の初めてもお兄さんに……」
「それについてはもっと成長してから考えとけ」
「はーい」
『繋ぎ手』が悪戯っ子のような笑みを浮かべながら答えていた時、店の入り口が開き、『創り手』と『探し手』の二人が現れた。
「店先で楽しそうにしてたようだけど、何か良い事でもあったの?」
「今の関係はとても貴重で幸せだって話をしてたんです。それに……さっきは私の初めてをお兄さんにあげちゃったし……」
「初めてって……え、お兄ちゃん達何をしてたの!?」
「誤解を招く言い方をするな。お互いに好きを伝えるために一回だけキスをしてただけだよ。してきたのは『繋ぎ手』からだけどな」
「ふふ、なるほどね。けど、若くて甘酸っぱくて良いと私は思うわ」
「私もそれを聞いてなんだかキュンキュンしちゃった。ねえ、お姉ちゃん。お兄ちゃんとのキスってどうだった?」
「それはね……」
『探し手』からの問いかけに『繋ぎ手』が答えようとしたその時、四人は何かを感じ取ったように同じ方向を向き、その先から歩いてくる人影に目を向けた。
「おや、新しいお客さんかな」
「みたいだな。今度はどの道具の縁者なんだろうな」
「ふふ、楽しみだね」
「そうね。それじゃあお出迎えといきましょうか」
その言葉に三人が頷き、導かれてきた客が四人の姿に驚く中、四人は声を揃えた。
『ようこそ、『不可思議道具店』へ』
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また別の作品で。