第10話 夢枕 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「さて……だいたいこんなところかしらね」
様々な人々の声で賑わう街の中、店主の女性は食料品などが入った袋を両腕に掛けながら独り言ちた。空は綺麗なオレンジ色に染まり、微かではあったが、カラスの鳴き声もどこからか聞こえ始めていた。
「そろそろあの子も帰ってくるでしょうし、私も早く帰りましょうか。早くしないとあの子からお叱りを受けちゃうものね」
そう言いながら店主の女性が再び歩き始めようとしたその時だった。
「あ、あの……!」
「え?」
突然聞こえてきた声に驚きながら店主の女性が振り返ると、そこにはスーツ姿の長い黒髪の女性が立っていた。
「貴女は……先日お店に来て頂いたお客様ですね。こんばんは。先日はご来店頂きありがとうございました」
「あ、いえいえ。私も貴重な経験が出来ましたし、道具との縁があったのは本当に良かったと思ってます」
「それは良かったです。あれから『夢枕』はどうですか?」
「はい。あの枕のおかげですぐに眠れる上にスッキリ起きられるようになって、たまっていたストレスもだいぶ無くなりました」
「そうですか。今後とも『夢枕』をよろしくお願いしますね」
「ええ、もちろん。それにしても……夢の中で会いたいと思った人に会えるっていうのは本当にすごいですね。私、もう会えないからと思って諦めていたんですが、夢の中だけでも会えたのは本当に嬉しかったです」
「そういえば、ご来店された時も会いたい方がいらっしゃる様子でしたね。差し支えなければどなたに会いたかったのか教えて頂いてもよろしいですか?」
店主の女性の問いかけに黒髪の女性はコクンと頷く。
「……私が会いたかったのは、小さい頃に亡くなった家族なんです」
「ご家族……」
「はい。私、小学生の頃の家族旅行中に事故に巻き込まれて、一緒に行っていた両親と妹と死に別れてしまったんです。その後、祖父母の元に引き取られたんですが、その祖父母も少し前に病気で亡くなって、今では家族と言える人が誰もいないんですよ」
「なるほど……」
「だから、『夢枕』を買って帰ったあの日、みんなに会いたいと思いながら眠ったんです。一番会いたい人と会えるというお話でしたけど、私にとっては事故で亡くなった両親や妹も私を引き取って育ててくれた祖父母も一番会いたい相手でしたから。
そしたら、夢の中で本当に会う事が出来て、それに驚いてる内に家族からは大きくなったねよく頑張ったねって言われて、私、その言葉がすごく暖かくて嬉しさで泣いちゃいました」
「そうでしたか。きっとご家族もお客様のこれまでの頑張りを天国から見ていたのでしょうね」
「そうなんだと思います。そしてその日は、みんなで満開の桜を眺めながら色々な話をしたんですが、今でも時々夢の中に来てもらって悩みを聞いてもらったり向こうでの出来事を聞いたりしてるんです。そうやって話すだけでもだいぶ気持ちが楽になるみたいですから」
そう話す黒髪の女性の表情はとても明るく、ストレスなどに悩まされているような様子が見られなかった事から、店主の女性は安心したように微笑む。
「悩みなどを打ち明けるだけでもだいぶ変わるようですからね。さて、それでは私はそろそろ失礼します。早く帰らないとあの子を心配させてしまいますので」
「あ、はい。あの時も言いましたけど、機会があったら、またお店に寄らせてもらいますね」
「はい、お待ちしております」
店主の女性が丁寧に一礼をし、それに対して黒髪の女性が微笑みながら会釈をした後、店主の女性は再びゆっくりと歩き始めた。
「家族……か。今の私達にとっては、お互いが家族のような物だけどね」
少し寂しそうに呟いた後、店主の女性はそのまま『不可思議道具店』へ向けて歩いていった。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。