幕間
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「ん……」
薄暗い中で『繋ぎ手』は静かに目を覚ます。そしてまだ頭がボーッとする中、ゆっくり目を開けて周囲を見回していた時、隣に座っている人物の姿に思わず声を漏らした。
「え……」
「やあ、こんなところで会うなんて奇遇だね」
「貴女は私の……」
「そう。君とこうして直接会うのはなんだかんだで初めてだったね、『繋ぎ手』。君の中にあった能力の具現体と話すのはどんな気分かな?」
「……色々言いたい事はあるけど、自分の顔した人が違う口調で話してるのは違和感がある」
「あはは、そうか。けど、そういう感想が出るだけまだ良いよ。君が少しは落ち着けているという証拠になるからね」
『救い手』が安心した様子で笑う中、二人がいるどこかの扉が開いた事で目の前に光が溢れ、その眩しさに『繋ぎ手』が目を軽く瞑っていると、そこに高級そうなスーツ姿の少年が姿を見せた。
「……ふぅん、たしかに同じ顔をしているな。もっとも、俺にはそんな事は関係ないが」
「……誰? 私達をここへ連れてきたのは何故なの?」
「誰、か……本来なら俺がそれを聞きたいところなんだが、まあ良いだろ。あのどうしようもない男を始末してくれたわけだからな」
「どうしようもない男……?」
「そっちは心当たりがないようだが、もう一人はどうだ?」
少年からの問いかけに『救い手』は静かに頷く。
「……この子の父親の事だね」
「え……」
「そうだ。当主の座を奪うまでもだいぶ苦労させられた上にその後も面倒臭かったからな。これでもお前達には感謝してるんだぞ?」
「そ、それじゃあ貴方は……」
「……成長してあの頃の面影もあまりないけれど、かつての許嫁なのだろうね」
「俺にはまったく記憶がない話だがな」
「それで、ボク達二人を連れてきて何をしようと言うのかな? もしもあの日彼女にしようとした事の続きを考えているのなら、ちゃんと抵抗させてもらうけど」
床に座らされ、両手を縛られながらも『救い手』が敵意のこもった視線を向けると、元許嫁は不敵な笑みを浮かべる。
「それも面白そうだが、今の俺は女に不自由しないんでな。初の女が自分の母親とお前達の母親だったのは少々おかしな話だが、最後まで楽しませてくれはしたから、良い事にはするか」
「最後まで……? え、二人はどうしたの……?」
「たしか二人との間に子供まで出来ていたはずだけど」
「……そんなもんとっくの昔に堕ろさせた。年上の女であるはずの二人がまだ子供だった俺にさんざん悦ばされる姿には優越感を覚えていたが、子供が出来た頃からもっと自分に俺の血を残させてほしいと言っては日に何度も求めてくるようになったから、二人とも始末した。
二つの家の金を使って非合法の売春組織やヤクザ達とコネクションを作り上げた時にクスリ漬けにして二人とも適当な店に押し込んでな。この前も見に行ってみたが、あの頃の姿は見る影もなく、顔を赤くして目の焦点が合わない中で薄汚い男達に奉仕していたりクスリと快感を求めながらそいつらの上に跨がって腰を振っていたのは中々滑稽だったぞ」
「そんな……」
「これであと始末するべきは“お前達の父親”だけだな」
「……え?」
元許嫁の言葉に『繋ぎ手』が驚く中、元許嫁はニヤリと笑う。
「そうか、お前達はまだ知らないんだったか。俺達は生まれた時にお互いの両親に交換されていたんだよ。アイツらの取り決めでな」
「両親に交換……」
「……つまり、相手方の子供を自分達の子供として育てていたわけか」
「そうだ。アイツらもそんな取り決めをしたのは何故だったのかわからないようだったが、それを証明する書類が発見されてそれが判明したんだ。実に馬鹿馬鹿しい話だがな」
「……なるほど。そう考えたら納得がいくか」
「どういう事?」
『繋ぎ手』の疑問に『救い手』は静かに答える。
「彼、本当の父親と会った時にその場には君の助手達のかつての親族もいたんだ。それを見てそんな偶然もあるのかと考えていたんだが、今になって思えば彼が本当の父親だったからこそ記憶を後で思い出せるように細工されていたし、同じような細工をされていた彼らの親族と交流するように神に仕組まれていたんじゃないかと思うんだ」
「そっか……たしかにそれなら納得がいくかも」
「そして父親だと思っていた男は記憶を取り戻す様子どころか思い出そうとする気すら見られなかったし、そこの彼もそんな事に興味はなさそうだ。それも二人が実の親子だからそうなっているのだろうね」
「そんな過去なんかに構ってる暇はないからな。だが、お前達が持つという能力は有益だ。あらゆる能力を持つ道具を有する存在と俺達がやられたという相手の感情を操作する能力は興味深く利用価値がある。
よって、お前達はこれから俺の道具として残りの人生を過ごしてもらう。もし反抗すれば、お前達が大切にしている奴らの命はないものと思え」
「く……」
「……少々面倒な事になったものだ。因みに、その情報を渡したのは誰なのかな? 知っている人間もだいぶ限られるはずだけど」
「それを教えてやる義理はない。とりあえず衣食住だけは保障してやるが、逃げるなんて考えないようにな」
そう言うと、元許嫁はそのまま去っていき、二人は再び薄暗い中に取り残された。
「どうしよう……どうにかしてみんなに連絡をとらないと……」
「それは止めた方がいい。下手な真似をすると、彼らにも危害が及ぶ」
「で、でも……!」
「衣食住は保障すると言っていたのだから、恐らく後でここから移動させられるのだろう。だったら、この状況を楽しませてもらおうじゃないか。お互いに道具を取り出せるカバンや他の道具は取り上げられているようだけどね」
「……どうしてそこまで冷静でいられるの? この状況が怖くないの?」
震える声で『繋ぎ手』が訊く中、『救い手』は微笑みながら頷いた。
「ボク達には頼りになる人々もいるし、道具達だっている。だったら、後は来るのを待つだけだ。君も信じたまえよ、これまで君が心を繋げ合い、絆を深めてきた人達の事を」
「『救い手』……うん、そうだね。御師匠様やお兄さん達なら絶対に来てくれる!」
「その通りだ。では、ボク達もどうにか脱出するために協力しようじゃないか、『繋ぎ手」」
「うん!」
かつて一つだった少女達は笑い合うと、脱出するための手段について話し合いを始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。