第10話 夢枕 中編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「……ふぅ、ようやく帰ってきた」
昼過ぎ、帰宅した女性は疲れた様子で息をつくと、持っていた桜柄のカバーの枕をリビングのソファーの上に置いた。そしてその隣に座ると、天井を見上げながら再び疲れたように息をついた。
「はあ……いつからこんなに疲れやすくなったんだろ。学生の頃は授業や部活動でも疲れるなんてなかったのに、いつの間にか体力が落ちちゃったのかな……」
女性は哀しそうにため息をついた後、ソファーの上にある『夢枕』に頭を乗せ、そのまま足を伸ばして目を閉じた。
「……早速、この『夢枕』に頼ってみよう。頭を乗せると、すぐに眠りにつく事が出来て、自分が一番会いたい人と夢の中で会えるっていう話だけど、私が一番会いたい人なんて決まってるよね。
よし……それ、じゃあ……おやす、み……」
意識がゆっくりと落ちていくのを感じながら女性は微笑むと、そのまま眠りについた。そして気づくと、女性はいつの間にか外に立っており、周囲に植えられた桜はどれも満開だった。
『綺麗な桜……こんなに綺麗な桜を見たのっていつぶりだろ。ここまで綺麗な桜を見られただけでも得した気分かも』
女性は嬉しそうに微笑みながら桜を見ていたが、少し離れたところに数人の男女がシートの上に座りながら楽しそうに話しているのが見え、信じられないといった様子でゆっくりと近づいた。
女性と男女の距離が縮まるにつれて女性は嬉しそうな表情を浮かべながら目に涙を溜めだし、シートまで辿り着く頃には溜めた涙をポロポロと流していた。
『……み、みんな……』
『……おや、本当に来てくれたのか』
『……ここに呼ばれた時に成長した貴女と会えるって誰かに言われた気がしたけど、本当に会えるなんてね』
『お姉ちゃん、久しぶりだね』
『私達は少し前まで会ってたけど、またこうやって会えるのは本当に嬉しいわ』
『そうだな。本当に……よく頑張ってきたな』
『みんな……!』
男女の言葉に女性の目から大粒の涙が溢れていくと、三十代程の男女と幼い少女は頷きあってから立ち上がり、揃って女性を抱き締めた。
『……お前を一人にしてごめんな』
『事故で亡くなって天国に行った後も心配だったのよ』
『私だけがお母さん達と一緒だった分、今はお姉ちゃんがお母さん達を独り占めしていいからね』
『うん、うん……!』
『お前みたいに素晴らしい娘を持てた事を誇りに思うよ』
『今、どれだけ一緒にいられるかわからないけど、一緒にいられるこの時間を思いっきり楽しもう』
『私もお姉ちゃんと一緒にお話ししたい!』
『私も。話したい事、いっぱい話してちょうだい』
『溜まっている物、抱えている物、全て吐き出していくといい』
『……うん。ありがとう、みんな』
女性が安心した様子で微笑んだ後、六人はシートの上に座りながら桜を眺め、とても幸せそうに様々な話を楽しみ始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。