第1話 写し絵筆 中編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「はあ……今日も憂鬱だなぁ」
放課後、クラスメート達がそれぞれの部活動へ向かったり帰宅するために歩き始めたりする中、少女は気鬱そうにため息をついていた。すると、そこに一人の少年が近づいてきた。
「なんだよ、ため息なんてついて」
「……理由くらいわかるでしょ? 今日も部活に行きたくないの」
「そんな事言ったって仕方ないだろ? ほら、早く行った行った。愚痴ぐらいなら後でいくらでも聞くからさ」
「……薄情者」
「何とでも言え。それに、新しい絵筆を手に入れたんだろ? 新品を使えばたぶん気分も変わるって」
「……うん、わかった。それじゃあ行ってくるね」
「ああ」
少年に見送られながら少女は教室を出ると、美術室へ向かいながら鞄の中へと手を入れ、一本の絵筆を取り出した。
「……たしか自分が描きたい物にこの絵筆の先を向けると、絵筆がそれを記憶して代わりに写してくれるんだったよね。一応、昨日の夜に何枚かの写真に絵筆の先を向けてみたけど、本当に効果があるのかな……? 試しに何か適当な紙を使って実験してみようかな」
そう言いながら少女は鞄からノートを取り出し、適当なページを開いてから『写し絵筆』の先をノートにつけた。すると、少女の意思とは関係なく手が動きだし、白紙だったページにはみるみる内に一枚の風景画が描かれていった。
「す、すごい……! 筆の動きも全然迷いがないし、写真で見たままの山や鳥がどんどん描かれてく……これ、本当にすごい道具なのかも……!」
『写し絵筆』の力に少女がワクワクとする中、『写し絵筆』はサラサラと絵を描いていき、完成と同時にその動きをピタリと止めた。
そして、少女がノートに描かれた絵に視線を落とすと、そこには淡い青色の山を背景に澄みきった川が流れる上を数羽の鳥が飛んでいる光景が広がっており、鳥達の囀りや川のせせらぎが今にも聞こえてきそうな程にリアルに描かれていた。
「……すごい。絵も綺麗だし、構図も完璧。こういう絵ならコンクールでも簡単に賞を獲れそう……ここまでの絵を描けるなんて、この絵筆は本当にすごい物だったんだ。
これさえあれば、みんなよりも良い絵が描けるし、慰めるようなフォローもされなくなる……もう絵が下手な事を悩まずに済むんだ……!」
『写し絵筆』を見ながら言う少女の顔は嬉しそうだったが、その笑みはどこか邪悪さを感じさせる物だった。そして、『写し絵筆』とノートを鞄にしまうと、少女は笑みを浮かべたまま美術室へ向けて再び歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。