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不可思議道具店  作者: 伊達幸綱
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第93話 フェイマスタグ 後編

どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。

 日もすっかり沈み、空に月が浮かぶある夜、口から水を吐き出す像や見事な庭園などがある豪邸の中でガウンを着た男性は高級そうな椅子に座って満足そうにしていた。


「くくっ……本当にいい気分だな。『フェイマスタグ』の力で色々な奴を俺の支配下に置き、命令を聞かせる事でこうして豪勢な生活が出来ているのは実に愉快だ。

男共は俺の代わりにあくせく働き、女共は毎日俺の奴隷としてその身を捧げ、適当に拾ってきたりそいつらの連れ子は俺を崇め俺の奴隷となるための教育を施す。ははっ、本当に最高の生活だな」


 男性が愉快そうに笑っていた時、目の前に赤い渦が現れ、そこから『救い手』とコピー兄妹が現れた。


「やあ、こんばんは。ずいぶんいい生活をしてるようじゃないか」

「……お前達か。見ての通り、最高の暮らしをしている。前の暮らしよりも遥かに裕福で、俺を恐れて何も言わずに従う手下達もいるんだからな」

「そうかそうか」

「それで、お前達も手下になりに来たのか? そこの男は他の奴と同様にさっさと働きに出すが、お前達二人なら俺が可愛がってやらなくもないぞ?」

「……誰がお前のように薄汚い奴のために働くか」

「私もこのおじさんの手下なんかになる気はないよ。私はお兄ちゃんやお姉ちゃん、マスターさんからちゃんと愛情は注がれてるし、身を捧げるならこんなおじさんじゃなくもっとちゃんとした人が良いからね」

「……てめぇら、誰に向かってそんななめたクチをきいてんだ? ああ!?」

「おやおや、だいぶ嫌われているね。まあ、それも当然ではあるけれど」

「お前もだ、小娘。そもそもなぜお前達は俺を目の前にしてもそんな態度でいられるんだ?」


 男性が疑問を口にすると、『救い手』は静かにクスクスと笑う。


「ボクはその『フェイマスタグ』の創造者で、道具達とは会話が出来る力を持っているし、この子達も道具の力の影響を受けない性質を持っているんだ。そのくらい出来ないわけがないんだよ」

「なんだと……」

「さて……それではここに来た目的を果たすとしようか」


 そう言うと、『フェイマスタグ』はカタカタと震えだし、男性の首から外れると、そのまま『救い手』の元へと戻っていった。


「ふふ、おかえり」

「なっ……おい、それをこっちに寄越せ!」

「本来であれば、その言葉に従っても良いんだけど、どうやら『フェイマスタグ』自身がもう貴方に力を貸したくないようだからね。前にも道具自身が所有者に力を貸す事を拒否した事例はあったけど、『フェイマスタグ』はもっと怒っているようだ」

「ふざけるな……俺は誰よりも上位の存在だ。この世の奴らは俺の言う事だけを聞いていれば良いんだ!」

「その態度が『フェイマスタグ』を怒らせたんだよ。たしかに能力的には貴方の使い方で間違いないけれど、貴方はあまりにも傍若無人な態度を取りすぎた。だから、『フェイマスタグ』は怒ってボクにメッセージをくれたんだ」

「ふざけた事を言ってんじゃねぇ! 道具風情が人間に楯突くな! 道具ならおとなしく使われてろよ!」


 悪意と邪念に満ちた男性の言葉に『救い手』は静かにため息をつくと、目に怒りを宿しながら男性を睨み付けた。


「……どうやら貴方には道具どころか人間との出会いすら勿体ないようだ。前にかけた能力の影響ももうないのにそこまで他人を蔑ろに出来る人間に誰かと出会う機会なんて必要ないからね」

「黙れ!」

「本来ならこういう事はしないけれど、こればかりは仕方ないからね。やってしまっていいよ、『フェイマスタグ』」


『救い手』が『フェイマスタグ』に声をかけると、『フェイマスタグ』は光を放ち、その光に男性は手で顔を隠した。


「くっ、一体何を……」

「『フェイマスタグ』の注意点を破った時に受ける予定だった罰さ。貴方はこれまで自分の名前を利用して我が儘を通してきた。だから、これからは貴方の名前は何の力も持たなくなる」

「何の力も……だと?」

「そうさ。存在自体はあるけど、貴方の名前はもう誰からも認められない。正直に名乗ってもそれは偽名だと認識され、名前を変えてもそれすらも認められない。そんな存在しているけど存在していないといった人間に貴方はなったんだよ」

「そんなバカな……」

「それに……ほら、そろそろ来たようだよ」


『救い手』がクスリと笑いながら言うと、パトカーのサイレンがゆっくりと近づいてくるのが男性の耳に入ってきた。


「警察……!?」

「貴方の名前はもう誰からも認められないからね。『フェイマスタグ』の効果も消えて、これまで貴方に好き勝手されてきた人達が警察に通報していたのが今になって効力を発揮したんだ」

「そんな……」

「では、さようならだ。貴方が少しでも過去に興味を持っていたら、良かったのにね」

「過去、だと?」

「……その様子だと、あの人とは違って本当に何も覚えてないようだね。では、これからも楽しい人生を送ってくれたまえ。名前を誰からも認められない世間がバカにして楽しむだけの道具としての人生をね」


 男性は『救い手』を捕まえるために立ち上がったが、それよりも前に『救い手』達は赤い渦の中へと消えていき、男性は絶望と恐怖を感じながらその場にへたりこんだ。

いかがでしたでしょうか。

今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

それでは、また次回。

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