第91話 アイデアエッグ 中編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「はあ……今日もとりあえず仕事に行かないとな……」
空をどんよりとした厚い雲が覆う朝、スーツ姿の男性は同じようにどんよりとした表情でため息をつく。そして部屋を出ようとした時、ふと机の上に置かれた金色の卵が目に入り、男性は机に近づいてから手に取った。
「……そういえば、昨日もらったんだったな。名前は『アイデアエッグ』で、温めたり表面を磨いてやったりすると、金が手に入る方法や場所を知らせてくれるんだったか。
金……今から仕事だから、ある意味金が手に入るところへ行くところだけど、何か他に良い方法があるかもしれないし、とりあえずやってみるか」
男性は独り言ちると、『アイデアエッグ』を両手で握り混み、静かに目を瞑った。
「頼む、『アイデアエッグ』。何か良い方法を教えてくれ……!」
そうして握り込みながら数分が経ったその時だった。
『駅前で体調を崩す人がいる。すぐに救急車を呼ぶべきだけど、来るまでは安静にさせておいて』
「え……?」
突然頭の中に聞こえてきた幼い少年の声に男性は驚いたが、声が再び聞こえてくる事はなく、男性は手を開いて『アイデアエッグ』をジッと見つめた。
「……今のが『アイデアエッグ』の声って事か。駅前で誰かを助けたら、そのお礼で金が手に入るって事なんだろうけど、俺はすぐに欲しいところんだよな……」
男性は少々不満げだったが、再び『アイデアエッグ』が語りかけてくる事はなかったため、男性は諦めたようにため息をつき、『アイデアエッグ』をポケットに入れた。
そして家族に軽く声をかけてから男性は家を出ると、出勤のためにそのまま最寄り駅へ向かった。通勤や通学をする人々で駅前は込み合っており、その人混みを見た男性は顔をしかめる。
「……今日もだいぶ混んでるな。こんなに混んでるなら、たしかに具合を悪くする人が出てもおかしくな──」
男性が呟いていたその時、一人の若い女性が額に手を当てながらフラりとするのが目に入り、それに疑問を感じている内に女性はそのまま倒れ込み、駅前は騒然とした。
「倒れた……え、じゃあ『アイデアエッグ』が言ってた事は本当だったのか!?」
目の前の光景に驚きながらも男性はすぐさま女性に駆け寄り、周囲がざわつく中で携帯電話を使って救急車を呼び、女性を担ぎ上げると駅舎の中へと運び込み、駅員に女性が倒れた事を伝えた。
そして慌てた駅員が救護室に女性を運び込み、他の駅員から状況などを聞かれている内に救急車が駅へと到着し、女性が運ばれていく光景を見ながら男性はポツリと呟いた。
「あの人、助かればいいな……それにしても、『アイデアエッグ』が教えてくれなかったら、俺もすぐには対応出来なかったし、教えてくれたのは感謝しないとな」
男性は微笑みながらポケットの中の『アイデアエッグ』を撫でると、出勤のために切符を買うべく、駅舎の中へと入っていった。
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それでは、また次回。




