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不可思議道具店  作者: 伊達幸綱
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第85話 パニッシュメントシューター 後編

どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。

「コイツを『パニッシュメントシューター』でって事は……」

「……私達でこの人にダメージを与える事に……」

「……神様、因みに実際にやったら、どのくらいのダメージを与えられますか?」

「うーん……ここまでの悪事もだいぶ多いから、精神崩壊までは行けなくとも植物状態にするまでは出来るんじゃないかな?」

「つまり、人生を壊せるくらいはダメージを……」


 神の返答に兄妹の表情に迷いが生じる中、静かにしていた少女は目に涙を浮かべながら少年の胸に顔を埋める。


「……やっぱり、嫌だよ……私、貴方を失いたくない……!」

「……そう言ってくれるのは嬉しいよ。だけど、これはいつか来るってわかってた審判の時なんだ。それに、こんな相手の情に訴えるような真似はよくない。ここはもう相手の選択に任せるべきだ」

「そうだけど……!」

「……ありがとうな。あの時、俺と出会ってくれたから、俺は変わるきっかけが出来た。君と出会えたから、俺は変われたようなもんなんだ」

「うぅ……」


 悲しそうに泣く少女を少年は抱き締めた後、複雑そうにしている兄妹を見ながら真剣な表情で静かに口を開く。


「……やるならやってくれ。俺は恨みも後悔もしないから」

「……本当に良いのか?」

「ああ。たしかにもうこの子と話せなかったりここの人達と一緒に働けなくなったりするのは辛いさ。だけど、『求心水』の力で周囲から頼られるようになって気づけたんだ。本当の意味で誰かと関わって、協力し合えるって本当に良い事だったんだって」

「……貴方は『救い手』に救われたわけだね」

「そうなるな。『求心水』と縁があっただけではあるけど、縁があったからこそ今の俺がある。だけど、俺が過去にやった事が無くなったわけじゃない。

さっきも言ったけど、これはいつか来るってわかってた審判の時なんだ。だったら、俺はそれを受け止める。これで罪が清算されるわけじゃないけど、二人から考えたら俺に対して色々思うところはあるわけだし、二人の好きなようにやってくれ」


 少年の目には迷いはなく、その真っ直ぐな目に『探し手』が動揺する中、『導き手』は『パニッシュメントシューター』を握る手を強くしたが、やがてその手の力は弱くなり、もう片方の手で『探し手』の肩をポンと叩いた。


「……行こう。俺達がやるべき事はこんな事じゃない」

「お兄ちゃん……」

「……良いのか? 『パニッシュメントシューター』を使わなくても殴ってくれたり色々言ってくれたりしても良いんだぞ?」

「……たしかにそうする事は出来る。だけど、そんな事をしたら、過去のお前と同じになるからな。俺が誰かを傷つける事があるとしたら、それは今みたいな報復じゃなく、近くにいる大切な人を守る時だけだ」

「大切な人……」

「今の俺には妹だけじゃなく、一緒に暮らしてる人達や俺達の事情を知って協力してくれる人、そして道具を通じて出会った人がいて、その人達は俺にとって大切な人達だ。今、お前に対して何かをするのは簡単だけど、その選択はそういった人達を哀しませる事になる。だから、俺はお前に対して何もしない。何もしない事こそが俺がお前に対してくだした審判であり罰だ」


『導き手』が迷いのない目で少年を見つめると、少年は一瞬驚いた後に目からポロポロと涙を溢し始めた。


「……はは、そっか。たしかにこっちのが辛いかもしれないな……」

「お前は永遠に罪を背負いながら生きろ。簡単に清算なんてさせないし、謝罪だって受け入れない。あの時の俺達の辛さはその程度で清算出来る程じゃないんだ。お前もそれで良いか?」

「……うん、良いよ。私も同じ気持ちだもん。それに、甘い事を言うようだけど、この人にも今は大切な人達がいる。だったら、私怨でその人達からこの人を奪うのは間違ってるよ」

「……だな。神様、これが俺達の選択です。たぶん、試練的には失敗だと思いますけど」

「……さて、それはどうだろうね。とりあえず、この件については後で答え合わせをするから、今は帰ろうか」

「はい」

「わかりました」


 二人が返事をし、神が白い光を出現させる中、少年は兄妹に対して頭を下げた。


「……ありがとう。俺に対してこういう答えを与えてくれて」

「……別にお礼を言われるような事じゃない。だけど、もっと俺達が成長して、お互いに何の気兼ねもなく会える時が来たら、その時は謝罪でもなんでも聞いてやる。だから、その時までその子の事も大切にしてやれ。お前の事をここまで大切に想ってくれてるようだからな」

「……わかってる。この子と付き合うと決めた時に一生大事にするって決めたからな」

「……うん、そうしてあげて。それじゃあ“またね”」

「“またな”」

「……ああ、“またな”」


 噛み締めるように三人はその言葉を口にした後、少年達が見守る中、『導き手』達は白い光の中へと消えていった。

いかがでしたでしょうか。

今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

それでは、また次回。

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