第80話 心惹膏 中編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「さて……そろそろ学校いかないと」
よく晴れた日の朝、朝食を食べ終え、洗顔も終えた少女は自室に戻ると独り言ち、着替え始めようとした時、机の上に置かれた小さな白いケースに視線を向けた。
「そうだ……せっかく買ってきたんだし、どんな感じか試してみよう。たしか『心惹膏』っていう名前で、肌の乾燥やシミ、皮膚病にも効果がある上に私に気がある人や心が綺麗な人を惹き付ける香りを出してくれるようになるんだったっけ。
でも、私が好きな人はたぶん私の事なんてそういう対象としては見てない気はするし、とりあえず普通の軟膏として使おう」
どこか諦めたように笑いながら少女は『心惹膏』の蓋を開け、中に入っていた白い軟膏を人差し指の先で取り、伸ばしながら全身に塗っていった。
「スゴいサラサラ……これまで使ってみた物は、塗った後もべたついたりちょっと匂いが気になったりしたけど、これは塗ったところがすぐサラサラになるし、ほんのり良い香りがする気がする。これなら特に気にせずに使っていけそう」
塗った箇所を見ながら微笑むと、少女は制服へと着替え、鞄を持って部屋を出た。そしてリビングにいた両親に声をかけてから玄関のドアを開けると、そこにいた人物に少女は驚く。
「え……」
「おはよう。今日は良い天気だね」
「う、うん……おはよう。でも、どうしてここに? いつもは生徒会とかクラス委員とかで早めに行ってるのに……」
「今日はどれもないんだ。それに……今日は何となく君と一緒に登校したくなってさ。小学校の頃とは違って幼馴染みの女の子と一緒に登校するのは流石に恥ずかしいと思って一緒に行かなくなってたけど、やっぱりこうして好きな子の事を待ってる時間も僕には大切だってわかったよ」
幼馴染みの少年の言葉に少女は驚く。
「……え?」
「君はどうかはわからないけど、僕は君の事を小学校の頃から好きだったんだ。こんな風に面と向かって言うのは緊張するし恥ずかしくて言えなかったけど、なんだか今日は言っておかないといけないと思えたんだよ」
「……私も君が好き。でも、私の事はそういう対象としては見てないと思ってたから……」
「……そっか。不安がらせてごめんね。でも、これからはちゃんと好きを伝えていくよ。だから、改めてこれからもよろしくね」
「うん、うん……!」
少女が嬉し涙を流す中、微笑む少年は優しく抱き締めながらその背中をトントンと叩き、想いを通じ合わせた二人はしばらくそのままでいた後、幸せそうな笑顔を浮かべながらゆっくりと歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




