第80話 心惹膏 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
現世から隔絶された空間に建つ世にも不思議な道具を扱う道具店である『不可思議道具店』。そのの店内では、眉間に刀傷があるスーツ姿の男性と『繋ぎ手』が話をしていた。
「あれからどうかと思って様子を見に来たんだが……どうやらうまくはいったみたいだな」
「はい。まだ誰かを好きになるのは無理ですけど、お兄さん達とまた一緒に食事したり道具を渡して歩いたりするのが楽しいと思えるようになりましたから、少しずつ私も変わっていこうと思います。ただ……少し気掛かりな事があるとすれば、過去の私が人生を狂わせてしまった人達が今頃どうしてるかですね」
「ああ、感情を操作して色々壊してしまったっていうお前さんの元両親や元許嫁達か。たしかに俺も気になるし、時間があったら少し調べてきてやるよ。あの兄弟やお前さんの御師匠様も少しずつ前に進んでるなら、その過去と完全に決別した方が良いからな」
「ですね。それじゃあお願いします」
「おう、任された」
『繋ぎ手』の言葉に刀傷の男性が答えていると、店のドアが静かに開き、一人の少女が恐る恐る店内へと入ってきた。
「あ、お客さんだ。いらっしゃいませ、『不可思議道具店』へようこそ」
「道具店……ここ、お店だったんですね」
「世にも不思議な道具ばかり置いてる場所だけどな」
「まあ、それがウチの売りですから。それで、貴女は何か悩みとかってあるのかな?」
「悩み……強いて言うなら、この乾燥肌を治したい事です。私、生まれつき肌が少し弱くて、色々なクリームも試したんですけど、中々うまくいかなくて……好きな人もいるのにこれじゃあ振り向いてもらう事すら……」
「肌の悩みか……何か良い道具はあるのか?」
「ああ、それならちょうど良い子がいますよ」
そう言うと、『繋ぎ手』は店内を歩き始め、小さな純白のケースを手に取ると、少女の元へと戻った。
「これは……?」
「この子は『心惹膏』という名前で、肌のシミや乾燥肌以外にも皮膚病にも効果を発揮してくれて、塗った人から貴女に気がある人や心の綺麗な人を引き寄せるとても良い香りが出るようにしてくれるから、もしも貴女の好きな人が貴女に気があるなら効果があるはずだよ」
「なるほど……だが、そうじゃなかったら引き寄せられないわけだな」
「そうですね。だから、そこは貴女の頑張り次第かな」
「……そうですね、ダメかもとか難しいかもって考えるだけじゃなく自分から行動しないと。あの、これってお幾らですか?」
その質問に『繋ぎ手』が答えると、少女は値段に驚いた様子を見せる。
「え……そんなに安くて良いんですか?」
「うん、他の子も同じような値段だしね」
「わかりました。それじゃあこれはお代です」
「……うん、ちょうど頂きました。レシートは必要ですか?」
「あ、大丈夫です。あの……本当にありがとうございます。私、頑張ってみますね」
「うん、頑張ってね。あ、それと……その子にはちょっと注意点があるんだ」
「注意点……ですか?」
少女が不思議そうに首を傾げると、『繋ぎ手』は静かに頷く。
「そう。その子を塗る時は人差し指にちょっと乗る程度の量にしてね。それ以上塗ろうとすると、大変な事になっちゃうから」
「大変な事……わかりました、気を付けます。それじゃあ失礼します」
そして少女が店を出ていくと、刀傷の男性はドアの方を見ながら静かに口を開いた。
「他人を惹き付ける軟膏か……相変わらず変わった物が多いもんだな。さて、それじゃあ俺もそろそろ帰るぞ」
「わかりました。来てくれてありがとうございました」
「どういたしまして。それじゃああの兄弟や御師匠様によろしくな」
「はーい」
『繋ぎ手』の返事を聞いて男性が店を出ていった後、『繋ぎ手』は拳を軽く握りながら小さく呟いた。
「……私も誰かを好きになれるように頑張らないと。好きになるのってやっぱり必要な事みたいだしね」
拳を開いた後、『繋ぎ手』はふぅと息をつき、店内に置かれた道具の様子を見て回り始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




