第78話 テレパシーキーホルダー 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「……本当にどうしたら良いかな」
よく晴れた昼過ぎ、一人の少年が俯きながらとぼとぼと歩いていた。
「アイツが引きこもり始めてからもうだいぶ経つけど、引きこもり始めた理由すら話してくれないし、外に出ようともしてくれない。話してくれたら何か力になれるかもしれないのに……はあ、何か良い手は無いのか……?」
少年が暗い表情でため息をついていたその時だった。
「そこの君、ちょっと良いかな?」
「え……?」
突然目の前から聞こえてきた声に驚きながら立ち止まり、ゆっくり顔を上げると、そこには中にシャツを着た青色のデニムジャケットに緑色のスカート姿の少女と水色のシャツに紺色のズボンの少年、そして桃色のパーカーに若草色のスカート姿の少女が立っていた。
「……俺に何か用か?」
「まあ、用事というかなんだか暗い顔をしていたから何かあったのかなと思ってね」
「よかったら俺達に話してみないか? 話すだけでも何か変わると思うしさ」
「……まあ、話すだけなら。実は俺には幼馴染みがいるんだけど、かなり前から引きこもりになってるんだよ。だけど、引きこもり始めた理由を話してくれないし、外に出ようともしてくれないからどうしたら良いかなと思ってたんだ……」
「つまり、理由を話してもらえたら良いんだね。お姉ちゃん、ちょっと鞄の中見せてくれる?」
「うん、良いよ」
『繋ぎ手』が返事をしてから鞄を下ろし、『探し手』はその中に手を入れると、小さな太陽と月のキーホルダーを一つずつ取り出した。
「キーホルダー……?」
「これは『テレパシーキーホルダー』っていう名前で、太陽と月を別の人同士が持ってると、その人同士はどれだけ離れていてもテレパシーで会話が出来るんだ。因みに、思ってる事も筒抜けになるから、嘘はつけないよ」
「……って事は、これをアイツに渡せば……!」
「まあ、黙ったまま渡すのは気が引けるかもしれないけど、嘘はなしで話が出来るな」
「そうだね。そして、この子達は君にプレゼントするよ。その幼馴染みの子とのコミュニケーションに役立ててみて」
そう言いながら『繋ぎ手』が『テレパシーキーホルダー』を渡そうとすると、少年は驚いた様子を見せた。
「え……でも、本当に良いのか?」
「うん、この子達も店頭に並べられなかったり試作品だから渡しても良いって言われたりしてる子達だからね。だから、幼馴染みの子とちゃんと話してあげて。たぶん、救えるのは君だけだからね」
「……わかった。ありがとうな」
「どういたしまして。因みに、これに注意点ってあるのか?」
「特には無いけど、さっきの嘘はつけないっていうのが注意点みたいな物かな。二人とも何かに付けてたり手に持ってたりしないと効果はないけどね」
「なるほどな」
「さて……それじゃあ私達はそろそろ行くよ。その子達も幼馴染みの子も大切にしてあげてね」
「ああ、もちろんだ。またな、三人とも」
「ああ、またな」
「またね、お兄さん」
そして『繋ぎ手』達が去っていくと、少年は手の中にある『テレパシーキーホルダー』に視線を向ける。
「……テレパシーで会話が出来るキーホルダー、か。よし……今からアイツの家に戻ろう。もうこんな状態は嫌だしな」
少年は覚悟を決めた表情で来た方へ体を向けると、しっかりと道路を踏みしめながら走り始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




