第77話 ゴーストトランシーバー 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「はあ……本当にどうしたら良いんだ……」
夕暮れ時の公園で一人の男性がベンチに座りながら頭を抱えていた。その表情はとても暗く、表情と口から出た声の深刻さから悩みを抱えているのは明らかだった。
「一体どこにあるんだよ、亡くなった親父の遺言状は……てっきり弁護士が管理してると思ってたから安心してたのに、預かってたのが家の中に遺言状があるから内容を知りたければそれを探せっていう事だけ書いてる紙だけなんてバカバカしい事をしやがって……」
男性が呆れと怒りが入り交じった声で独り言ちていたその時だった。
「そこのお兄さん、少し良いかな?」
「え……?」
男性が顔を上げると、そこには目深に被った黒いパーカーのフードで顔を隠した人物と銀縁のメガネをかけた少年、そして目深に被ったキャップで顔を隠した紫色のパーカーに緑色のスカート姿の少女が立っていた。
「……こんな時間に子供が出歩くんじゃない。さっさと帰るんだ」
「ふふ、ご忠告どうも。けれど、その子供が貴方の悩みを解決出来るかもしれないとしたらどうかな?」
「悩みを……」
「はい。少し聞こえたんですが、何か探しているんですよね?」
「……ああ、そうだ。ウチの亡くなったバカ親父の遺言状を探しているんだ」
「遺言状……お姉ちゃん、何か良いのはある?」
「あるよ。それも、今回の件で考えたらかなりチートクラスなのが」
そう言いながら『救い手』はリュックサックを下ろし、中に手を入れると、中から小さなトランシーバーを取り出した。
「トランシーバー……?」
「そう。これは『ゴーストトランシーバー』という名前で、その名の通り、話したいと思って念じた幽霊と通話が出来るトランシーバーだ。話が出来る幽霊はその辺の浮遊霊や地縛霊、悪霊だけじゃなく、霊界や天国にいる霊も対象になる。その言葉の意味、わかるかな?」
「……なるほど。親父に直接訊けって事か」
「そういう子と。すぐには教えてくれないだろうけど、アテもなく探すよりはずっと良いと思わないかな?」
「たしかにな。それで、これを買えって事か?」
「いや、これは貴方にプレゼントするよ。今回の件に限らず、どうか大切にしてあげてくれ」
そう言いながら『ゴーストトランシーバー』を手渡そうとすると、男性は『ゴーストトランシーバー』を一度見つめてから静かに受け取った。
「……わかった。どうもありがとう」
「どういたしまして。ただ、この『ゴーストトランシーバー』には注意点があるんだ。たしかに幽霊とは通話が出来るけど、決して生者と話そうとしてはいけないよ? それをしてしまうと、大変な事になるからね」
「つまり、普通のトランシーバーとして使うなって事か。わかった、気を付けるよ」
「うん。それでは、ボク達はそろそろ失礼するよ。二人とも、帰ろうか」
「ああ。それじゃあ失礼します」
「またね、お兄さん」
そして『救い手』達が帰っていくと、男性は手の中にある『ゴーストトランシーバー』に視線を向けた。
「遺言状が見つかるかもしれない、か……よし、とりあえず誰もいないところで試してみよう」
独り言ちながら『ゴーストトランシーバー』を強く握ると、男性はベンチから立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




