第75話 クリエイターメモ 中編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「あれはもう二十年くらい前になるわね。あの子とは違って、ごく平凡な家庭で暮らしていた私は一人で本を読んだり絵を描いたりするのが好きだった。
友達もそこそこいたけど、一人で静かにしてる時間が好きだったから、そういう時間を作る事が多くて、両親からはもう少し他人と過ごす時間を作っても良いんじゃないかなんて言われていたわ」
「たしかに、『繋ぎ手』や俺達と話したりテレビ観たりしている時は楽しそうにしてますけど、話しかけに言ってるのは俺達からが多いですし、読書中だったり作業中だったりしますからね」
「そうね。そんなある日、小学生だった私が自分の部屋でのんびりとしていた時、ふと何かを作りたいという衝動に駆られて、段々それが我慢出来なくなってきた。
だから、私は頭の中に浮かんだ材料を集めて、集中して作業を始めた。そして出来たのが、この『クリエイターメモ』なのよ」
「小学生の頃にこれを……」
「慣れないながらも集めてきた紙を糸で縫い合わせてから厚紙で表紙と裏表紙を作って、表紙にタイトルを書いてね。出来た後、なんでこれを作ったんだろうっていう疑問が浮かんだけど、これがきっかけで私は能力が発現し、その後も能力に突き動かされてあらゆる道具を作り続けたわ。その頃の道具達も実はこの店にはあるんだけど……紹介はまた今度かしらね」
「わかりました」
「そうして色々な道具を作っていったけれど、私は決してそれらを家族や他人には見せなかった。そんなに見せる気にならなかったのもあるけど、安易に見せてはいけないという意識があったのもあるわね。だけど、やはり道具の力は強く、それが原因である出来事が起きてしまったのよ」
『創り手』が哀しそうな顔をし、『導き手』と『探し手』が顔を見合わせると、『創り手』は静かに話を続けた。
「私が中学生になりたての頃、道具の内の一つ、『フェロモンコロン』が隠していたところに無い事に気づいたの。『フェロモンコロン』は見た目は普通のオーデコロンなんだけど、その力は絶大で、つけた人の性別的なフェロモンを増大させ、そのフェロモンに魅せられた異性はつけた相手に興味がなくても妄信的に好意を寄せるようになるの」
「『チャームパフューム』の強化版みたいな感じですね」
「ええ。だから、すごく焦ったのよ。効果時間は丸一日だけど、その間なら異性であれば誰でも魅了して自分の言う事を好きに聞かせる事が出来たから。
そしてその最悪の事態は既に起きていて、うっかりつけてしまった両親はその力に魅せられて自分の好き勝手に他の異性を操り始めたのよ。自分の性的欲求を満たそうとしたのはもちろん、自分が欲しいと思った物を手に入れるために犯罪にも手を染めさせて、その結果、何人もの罪の無い人が逮捕されたり絆を壊されたりしたの」
「そんな事が……」
「まあ、結果として神様がどうにかしてはくれたんだけど、私の道具を創り出す力は危険な面もあるという事で、とりあえず神様の保護下に置かれ、あっちでの私がこれまで生きてきた記憶は全て他の人から消去された。
その後、私も自分の力の制御も出来るようになって、大丈夫だと判断された上で道具を今度は誰かのために使えば良いという神様の考えがあった結果、『不可思議道具店』が出来てここの店主を任されたの。そしてあの子が来て、あなた達が来て今に至るというわけね」
話が終わると、兄妹は少し心配そうに顔を見合わせ、その表情のままで『創り手』に話しかけた。
「……オーナーは今の生活と前の生活だとどっちが幸せでした?」
「やっぱりあの頃に戻りたいって思った事ってありますか?」
「そうね……あのまま普通の暮らしをするのも悪くないかなと思った事はあるわ。でも、これが私の運命ではあったし、私の道具が今度は色々な人の助けになれてるわけだから、後悔はしてないわ。それに、あの子やあなた達にも会えたわけだしね」
「オーナー……」
「さて、そろそろあの子も帰ってくるでしょうし、何かおやつでもつくってあげましょうか。二人とも手伝ってくれる?」
「はい」
「もちろんです!」
「ふふっ、ありがとう。それじゃあ行きましょうか」
『創り手』の言葉に兄妹が頷き、三人はまるで実の家族のような雰囲気でゆっくりと歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




