第74話 ハーモニーマンドラゴラ 中編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「ただいま……って言っても誰もいないんだけどね」
『救い手』達との出会いから数分後、少年は鍵を開けて中へ入った後、残念そうな声で独り言ちる。そして、背負っていたランドセルを置きに自室へ向かおうとしたその時、手に持っている大きな双葉が生えている植木鉢に視線を向け、それをリビングの隅に置いた。
「ひとまずここで良いかな。名前は『ハーモニーマンドラゴラ』で、本来なら抜かれたら聞いた人を死に至らしめる悲鳴をあげるけど、この『ハーモニーマンドラゴラ』はそんな事はない上に根を足のように使って器用に歩いたり歌ってくれたりするんだったよね。
なんだかそこだけ聞けば、ちょっと変わったペットみたいに思えるけど、実際はどんな感じなんだろう。とりあえずちょっと抜いてみようかな」
少年はランドセルをそばに置き、緊張で心臓の鼓動が少し速くなるのを感じながら双葉の茎を握った。
そして、軽く上に引っ張ってみると、思ったよりも簡単に『ハーモニーマンドラゴラ』は引き抜け、土の中から何本もの根が足のようになっている何も身にまとっていない色白の肌の小さな可愛らしい少女が現れた。
「えっ……お、女の子……!?」
予想していなかった『ハーモニーマンドラゴラ』の姿に驚き、『ハーモニーマンドラゴラ』が裸である事に気づいて少年が赤面していると、『ハーモニーマンドラゴラ』は不思議そうに少年を見てからにこりと笑った。
その可愛らしい笑みに少年はドキリとした後、そのまま『ハーモニーマンドラゴラ』を床に降ろすと、『ハーモニーマンドラゴラ』は何本もの細い根の足で立ち、周囲を軽く見回してから興味深そうにリビングを歩き始めた。
「こ、この子が……『ハーモニーマンドラゴラ』なんだ。なんだか思っていたような姿じゃないし、腰の辺りから見たら普通の裸の女の子に見えるから、なんだか目のやり場に困っちゃうけど、こうして見てると、可愛くてすごく落ち着くなぁ……」
キョロキョロとしながらリビングを歩き回る『ハーモニーマンドラゴラ』の姿に少年はクスリと笑った後、立ち上がってキッチンへと行き、食器棚からコップを取り出してから蛇口を捻って水を注いだ。
そしてそれを『ハーモニーマンドラゴラ』へ持っていくと、『ハーモニーマンドラゴラ』はすぐに水へと視線を向け、物欲しそうな目で少年を見上げた。
「うん、今あげるね」
しゃがみこんでから少年は『ハーモニーマンドラゴラ』を一度土へと戻し、周りの土へコップの水を静かに流し込んだ。
すると、『ハーモニーマンドラゴラ』から綺麗な歌声が聞こえ始め、その見事な旋律に少年は心を癒されていった。
「綺麗……こんなにも良い歌声を聞かせてもらえるなんて思わなかったなぁ。まだまだ未熟なところもあるだろうけど、これからよろしくね、『ハーモニーマンドラゴラ』」
『ハーモニーマンドラゴラ』に呼び掛けた後、少年は『ハーモニーマンドラゴラ』の歌声を静かに聞き続けた。
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それでは、また次回。




