第74話 ハーモニーマンドラゴラ 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「はあ……今日も一人かぁ……」
空がオレンジ色に染まり、少しずつ星が見え始めた夕方頃、ランドセルを背負った少年が少し寂しげに歩いていた。
「お父さんもお母さんも仕事が忙しいのはわかるけど、やっぱり一人で家にいるのは寂しいな。勉強したり本を読んだりしてれば時間なんて過ぎていくけど、誰とも話さずにただ過ごすのはつまらないし普通に寂しい。あーあ……ウチにペットでもいたら良かったのになぁ……」
少年がとぼとぼと歩いていたその時だった。
「そこの君、少し良いかな?」
「え……?」
突然背後から聞こえた声に少年が体を震わせ、少し怖がりながら背後を振り向くと、そこには黒いパーカーで顔を隠した人物と銀縁のメガネをかけたカジュアルな服装の少年、そして目深に被ったキャップで顔を隠した白いパーカーに緑色のスカート姿の少女が立っていた。
「え……えっと、あなた達は……?」
「ふふ、取って食べたりしないから怖がらなくても良いよ。ボク達は恵まれない人々の救世主とその助手達だ。なんだかさっきからすごく寂しそうにしていたようだけど何かあったのかな?」
「あ、はい……ウチは両親が共働きな上に仕事が忙しいと言って帰ってくるのが遅い時間なので、僕が家に帰っても誰もいないからペットでもいたら良かったのにって考えてたんです」
「ペットか……何か良い道具はあるか? 『救い手』」
「そうだね……ペットではないけど、彼女なら力を貸してくれるかもしれないよ」
そう言いながら『救い手』は背負っていたリュックサックの中に手を入れると、中から大きな双葉が土から顔を出した小さな植木鉢を取り出した。
「これは……?」
「これは『ハーモニーマンドラゴラ』という名前なんだけど、マンドラゴラという名前に聞き覚えはあるかな?」
「マンドラゴラ……たしか抜いたら悲鳴を上げて、それを聞いた人は死んでしまうっていう物ですよね?」
「そうだね。因みに、マンドラゴラ自体は実在していて、紫色の花を咲かせる毒性を持ったナス科の植物なんだけど、これはさっき言ったタイプのマンドラゴラだ。
だけど、これは抜いても別に悲鳴は上げない上に根を足のように使って器用に歩き、植わってる時に水をしっかりとあげればヒーリング効果のある綺麗な歌声を披露してくれるし、君がそれに混ざろうとすれば君の歌声を引き立たせるために見事なコーラスをしてくれるんだよ」
「だから、ハーモニーってついてるんですね」
「そういう事さ。という事で、これは君にプレゼントしよう。大切にしてあげてくれ」
そう言いながら『救い手』が『ハーモニーマンドラゴラ』を手渡そうとすると、少年は驚いた様子を見せる。
「え……い、良いんですか?」
「もちろん」
「私達がやってるのはそういう活動だからね。だから、遠慮無くもらっても大丈夫だよ」
「そういう事なら……えっと、ありがとうございます」
「どういたしまして。ただ、注意点があるから、それだけは守ってほしいんだ」
「注意点……」
『ハーモニーマンドラゴラ』を受け取った少年が緊張した面持ちで口にすると、『救い手』は微笑みながら頷く。
「ああ、そうさ。抜いても別に悲鳴は上げないけれど、悪意を持って傷つけようとしたり殺そうとしたら大変な事になる。だから、それは気をつけてくれたまえ」
「わ、わかりました……」
「では、ボク達はそろそろ失礼するよ」
「それじゃあまたな」
「またね」
「は、はい……」
『救い手』達が去っていった後、少年は手に持っている『ハーモニーマンドラゴラ』に目を向けた。
「……なんだか不思議な物を貰っちゃった。でも、ちゃんとお世話すれば良いわけだし……うん、きっと大丈夫だ」
双葉を軽く撫でながら独り言ちると、少年は再び家に向けて歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




