第73話 マインドウォッシャー 後編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「ふんふんふふ~ん」
ある日の昼頃、少年は自宅の浴室で鼻歌を歌いながら空のボトルを手に持っていた。そして浴室に置かれている『マインドウォッシャー』に手を伸ばすと、『マインドウォッシャー』を見ながら嬉しそうに笑う。
「この『マインドウォッシャー』を手に入れてから人生は楽しい事ばかりだな。父さんもあれからすっかり心を入れ換えて、仕事も精力的に頑張ってるし、パチンコや飲酒も止めて他所に作ってたらしい愛人との縁も切った。
母さんも最初は父さんの変わりように驚いて警戒していたけど、今では父さんとも笑って話せるようになったし、俺の弟か妹でもなんて話までしてたな。
それに、俺も『マインドウォッシャー』を使ってるからか女子からも良い香りがするって人気になって、こうして自分も『マインドウォッシャー』を使いたいから分けて欲しいなんて言われるようになったし、本当に『マインドウォッシャー』には感謝だな。さてと、それじゃあそろそろ移して、今日の内に届けに行くか」
そう言いながら少年が『マインドウォッシャー』のノズルをはずし、空のボトルに移し換えようとしたその時、垂れ始めていた『マインドウォッシャー』の中身はうっすらと光を放つと、そのまま少年の頭へと向かい、次々と体内へと染み込んでいった。
「え……な、何が起きてるんだ……!?」
突然の出来事に少年は驚いていたが、『マインドウォッシャー』の中身が半分ほど染み込んだところで少年は無表情へと変わり、それから程なくして少年の表情は恐怖の色に染まると、その手から『マインドウォッシャー』と空のボトルが滑り落ちた。
「あ、ああ……」
少年の口からはそんな言葉が漏れ出し、音に気づいた両親が様子を見に来た頃には少年は頭を抱えながら床に突っ伏していた。
「ごめんなさいごめんなさい……もう悪い事はしませんから許して下さい……」
後悔と怯えが入り交じったような声でひたすら謝罪を繰り返す少年の姿に両親は驚き、どうにか落ち着かせようとする中、家の外には『マインドウォッシャー』を手にしながら哀しそうな表情を浮かべる『繋ぎ手』とその両隣に立つ『導き手』と『探し手』の姿があった。
「……彼はダメだったか。だから移し換えないようにって言ったのに……」
「移し換えた結果、『マインドウォッシャー』の怒りに触れて、自分の悪事なんかに対して極端に恐怖を抱く程に精神や心を正された感じか」
「そんなところだね。肩がぶつかっただけでも涙を流しながら土下座したり少しずるい事をしただけでも自分は罪深い存在だって強く責めるようになる。あの調子だと、日常生活すらままならないだろうね」
「そっか……」
「さて、それじゃあ私達は帰ろう。私達に出来る事はないし、御師匠様のお手伝いをしてお風呂に入ってご飯を食べてのんびりしようか。あ、お兄さんも一緒にお風呂入る? 同年代の異性とのお風呂なんて早々入れないよ?」
「入らない。まったく……もし入るなら、お前が好きになれた奴と入れよ? それなら文句は言わないから」
「はーい。それじゃあ帰ろう、二人とも」
「ああ」
「うん」
家の中で少年の涙混じりの懺悔が響き渡る中、三人は出現させた青い渦の中へ入り、そのまま静かに姿を消した。
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それでは、また次回。




