第8話 クロノスクロック 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「あーあ……また失敗しちゃったなぁ……」
空に燦々と輝く太陽が昇り、その下で幼い子供達が遊ぶ様を親が微笑ましそうに見つめている中、スーツ姿の男はベンチに座りながら小さくため息をついた。
「探偵に憧れて事務所に就職したものの、先輩達と違って俺はいつも失敗ばかり。おかげで俺への依頼も一週間に一度あれば良い方になっちゃったなぁ……はあ、俺にはやっぱり探偵なんて向いてないのかな……」
探偵の男は哀しそうな顔をしながら再びため息をつき、そのまま静かに俯いた。すると、そこに一人の少女が近づいていくと、探偵の男はそれに気づいた様子で顔を上げ、目の前に立つ少女を見ながら不思議そうに声をかけた。
「えーと……俺に何か用かな?」
「はい。お兄さん、何か悩んでる事がありますよね?」
「悩み……まあ、無いと言ったら嘘になるかな。俺、実は探偵事務所に所属する探偵でさ、俺なりに精いっぱい頑張ってるつもりなんだけど、いつも失敗しちゃうんだ。
だから、依頼も一週間に一度あれば良いくらいで、今日も俺への依頼が無かったから、事務所にいづらくて抜け出してきたんだよ」
「なるほどなるほど……それじゃあ、この子が反応するわけだ」
そう言うと、少女は肩に掛けていたポーチを開け、中から黒い置時計を取り出した。
「これは……?」
「この子は『クロノスクロック』といって、この子をどこかに置いて針を動かす事で、動かした方向によってそこで起きた事やこれから起きる事を視る事が出来るんです」
「つまり……針を戻せばそこの過去が、針を進めればそこの未来が目の前で再現されるって事か?」
「そういう事です。そして、これはお兄さんにプレゼントしちゃいます」
「え……でも、そんなすごい物を本当に貰って良いのか? 流石にただで貰うのは気が引けるような……」
「大丈夫ですよ。これは御師匠様からあげても良いと言われてる物ですし、私は道具と縁のある人に道具と出会わせるのが仕事なので、探偵の仕事に役立て下さい。という事で……はい、どうぞ」
「あ、ありがとう……」
探偵の男が『クロノスクロック』を受けとり、物珍しそうに見つめていると、少女はクスクスと笑ってから静かに話を始める。
「さて……使い方は説明したので、今度は注意点です」
「注意点……まあ、流石にこんなすごい物ならメリットだけなんて事は無いよな。それで、注意点って何なんだ?」
「この子は過去も未来も限りなく視せる事が出来て、再現された出来事を視ている人が過去や未来にいる人から見つかる事は無いです。
でも、この子の力を借りる時、視たい場所が室内だったなら、その部屋のドアや窓は絶対に閉めて、使ってる間は誰も中に入れないで下さい。この公園みたいに屋外だったり閉めるドアや窓が無い場所ならそれは考えなくて大丈夫です」
「つまり、密室にした上に俺以外には誰もいない状態にしろって事か」
「そうです。それを守らなかったら……本当に大変な事になるので、絶対に守るようにして下さいね」
「……わかった。約束するよ」
探偵の男が真剣な表情を浮かべながら頷くと、橋渡し役の少女はこくりと頷き、そのまま後ろに体を向けた。
「さて……それじゃあ私はこれで。お兄さんの活躍、新聞やニュースで知られる日を楽しみにしてますね」
「あ、ああ」
その返事に対して笑みを浮かべてから橋渡し役の少女が去っていった後、探偵の男は手の中でカチコチと音を立てながら時を刻む『クロノスクロック』をしげしげと眺め始めた。
「……過去と未来を視られる置時計か。まあ、それが本当かわからないけど、もしも話の通りじゃなかったら、インテリアの一つとして使えば良いな。さて……いづらいのは変わらないけど、そろそろ事務所に戻るか」
探偵の男は憂鬱そうにため息をついてからベンチから立ち上がり、『クロノスクロック』をしっかりと手に持ったまま所属している探偵事務所へ向けてゆっくりと歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。