第73話 マインドウォッシャー 中編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「……よし、これで良いはずだ」
星が空に瞬き始め、青白い月が昇る夜、少年は浴室に立ちながら独り言ちる。その視線の先には一本のボトルがあり、少年はボトルを見ながら一人頷く。
「この『マインドウォッシャー』は普通の人が使えばただのリンスインシャンプーだけど、捻れた精神の持ち主や穢れた心の持ち主が使ったらそれらは正され、それ以降は元に戻る事はないってあの子は言ってた。
父さんの場合、誰かが新しい物を買ってきて置いておくと、勝手に使おうとするところがあるからな。こうして置いておきさえすれば、絶対に使うはずだ。だから……頼む、俺達に平穏な生活を送らせてくれ」
祈るように言った後、少年は浴室から出ると、そのまま自室へと向かった。それから数分後、玄関付近から男性の怒鳴り声が聞こえ始め、少年はため息をつく。
「帰ってきたみたいだな。帰ってきてすぐに風呂に入ろうとするし、一番風呂は自分じゃないと気が済まないタイプだから、すぐにでも効果は確認出来るはず。後はうまく行ってくれるのを期待して待つしかない……」
そうして少年は自室で勉強をしたり携帯電話をボーッと眺めたりしながらひたすら待ち続けた。それから数十分後、部屋のドアがノックされ、少年がドアを開けると、そこには少し怯えたような表情を浮かべる母親の姿があった。
「……お父さんが私達に話があるって言うからちょっと来てくれる?」
「……わかった」
少年は母親の表情から失敗したと判断し、ため息をつきながら答えた後、その後に続いて居間へ向かった。そこには入浴を終えた父親の姿があったが、その表情はどこか申し訳なさそうな物であり、少年がその表情に疑問を感じていると、父親は急にその場に座り込むと、二人に対して土下座をした。
「お前達……これまで本当にすまなかった……!」
「え、え……?」
「父さん、一体どうしたんだ……?」
「わからない。でも、風呂に入っていたら急にお前達に対してこれまで申し訳無い事をしたっていう気持ちが込み上げてきて、自分がどれだけ愚かな事をしてきたか思い知らされたんだ。俺は夫としても父親としても……いや、男としてそして人間として失格な事をお前達にしてしまったんだ……!」
「父さん……」
「あなた……」
「謝って許される事じゃないのはわかってる。だけど、こうして謝らせてほしかったんだ。お前達、本当に申し訳無い。これから心を入れ換えてお前達のために頑張る事にするよ」
土下座をしている父親を少年は母親と共に見ていたが、やがて二人は父親へと近づいて嬉し涙を流しながら抱きつき、家の中はしばらく三人の泣き声だけが響いていた。
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それでは、また次回。




