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不可思議道具店  作者: 伊達幸綱
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第72話 求心水 後編

どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。

「……よし、これで終わりだな」


 ある日の夜、少年は自室で机に向かっていた。その上には参考書やノート、筆記用具などが載っており、それらを見つめる少年の目はとても穏やかで澄んでいた。


「宿題も終わったし、委員長から頼まれた今日のクラスでの会議の議事録もまとめ終わった。これで後はのんびりあの子と話が出来そうだ。

それにしても……『求心水』と出会ってからだいぶ俺も変わったな。前までは暴力で相手に言う事を聞かせて同性の奴からは金を巻き上げたり異性の奴には身体を重ねさせたりしたけど、今はそういうのは止めたからな。

『求心水』の力で頼られる内にだんだん他の奴のために何かする事の方が楽しくなってきたから俺が無理矢理何かさせるのがバカバカしくなってきたし、『求心水』を飲んだ日に出会って今ではちゃんと愛し合えるような恋人になってくれたあの子がすごく良い子だからか俺の勝手な行動で泣かせたくないって思って品行方正な学校生活を心掛けるようになった。

けど、だからなんだろうな。これまでの俺の行動やウチの親の言動がおかしかった事に気付けたのは……」


 少年は哀しそうな顔でため息をつく。


「今でも俺に学校の奴らから金を巻き上げてくるように言ったり親父なんて自分が楽しむために適当な女子捕まえてこいなんて言うし、本当にそれに従ってきた自分が恥ずかしくてしかたないな。

だからこそ、いざとなったらその証拠を持って警察に行こう。もちろん、俺だって実行犯だから当然捕まるし、変わる事が出来た俺を受け入れてくれたみんなやあの子に辛い思いをさせる。だけど、俺も変われたからには前を向かないといけないんだ。じゃないと、“あの二人”に申し訳な──」


 その時、少年は不思議そうに首を傾げる。


「……俺、誰の事を言おうとしたんだ? なんだかこの前から変だよな……ウチには俺しか子供はいないはずなのに、ウチにいた同い年の奴を奴隷みたいに扱ったりストレス発散のために殴ったりした記憶がある事に気付いたし、そいつより小さな女の子に対していらなく身体を触ったり着替えを無理矢理除こうとしたりした記憶もある。

それに、よく考えてみたら『求心水』を初めて飲んだ日の登校中に見覚えのある奴と出会った気がし、記憶の中にある二人と同じ顔をしてた気がする。俺……過去に何かあったのか……?」


 少年が頭を抱えながら必死に記憶を探っていたその時だった。


「その理由、教えてあげようか?」

「え……?」


 背後から聞こえてきた声に驚き、少年が背後を向くと、そこには『救い手』とコピー兄妹が立っていた。


「お前は『求心水』をくれた奴……それに隣にいるのは……」

「ああ、この顔に見覚えがあるはずさ。だけど、彼らは君がすれ違った二人のコピー体だよ。本体なら今頃は新しい環境でしっかりとした生活を送っている。かつての君や君の両親から虐げられ傷つけられた記憶を乗り越えてね」

「……やっぱり、俺は何かを忘れてるのか?」

「忘れている、というよりは無かった事にされたのさ。彼らの願いによって彼らは元からこの世にいなかった事になり、彼らについてこの世界にいる誰もが記憶をまっさらにされた状態から彼らは再出発したんだよ。

だけど……どうやら君の場合はそれを実行した存在から断片的に記憶が残るようにされたみたいだね。何故そうしたかまではボクにはわからないけど」

「そうか……なあ、ソイツらに会う方法って無いのか?」

「無いわけではない。けれど、今さら彼らに会ったところでどうするんだい? 君達への記憶が少し戻り、これまでの事を反省しました。そんな事を言われたって、彼らが許せると思うかい?」


『救い手』の穏やかだがとても冷たい声に少年は悔しさと悲しみが入り交じったような顔で俯く。


「……わかってるさ。かつての俺が酷い奴だった事もソイツらからしたら俺は恨んだり嫌ったりするべき存在なのも。でも、だからと言って何もしないのも違う。会いたくないって言われても俺は一言だけでも伝えなきゃいけないんだ。酷い事をしてしまった事への心からの謝罪を」

「……それで彼らが許さなくても?」

「許されない事くらいわかってる。それに、これが俺の自己満足な事もな。だけど、俺は謝りたいんだ。情けないけど、それしか出来る事が思いつかないんだ……」

「……なるほどね。君達はどうだい? コピー体ではあるけど、記憶もそのままあるわけだし、何か言いたい事があるんじゃないかな?」

「……ないな。そもそもついてきたのもコイツが『求心水』の力で性格が変わったかのようになったって言うから見にきただけだからな」

「そうだね。たしかに変わったみたいだけど、私達からしたら嫌な人だったのは変わらない。それは本体も一緒だよ」

「そうだな。だから、本当にアイツらに対して悪いって思うなら、今背負ってる罪を全部償ってこい。それによって、お前は色々な物を失って、マイナスからのスタートになるかもしれないけど、そこから這い上がってしっかりとした自分になれたって思えた時には会いに行けば良いと思う」

「でも、ただ謝られるよりはそういうやり方の方が私達からしたら良いと思う。ただ言葉にするんじゃなく、目に見える形で信用させてほしいから。それくらいやったら流石に本体の私達もその謝罪を受け入れるんじゃないかな」

「マイナスからスタートして這い上がる……けど、俺にそれが出来るかな……」


 少年が不安そうに俯く中、『救い手』は静かに微笑む。


「出来ると思うよ。悪意と邪念をだいぶ高めたはずなのに『求心水』とうまくやってここまで変われたのなら大丈夫さ」

「……そうか。なら、頑張ってみるさ。何年かかったってやってみせる。それが俺のやるべき事だからな」

「ああ、それが良いと思う。そういえば、『求心水』の注意点を無視するとどうなってたんだ?」

「そうだね……人を惹き付けたいと思って過剰に飲んでいたら、周囲から異常に好意を向けられてそれが過剰な愛へと変わり、それで殺されたりそれ以上に酷い目に遭っていただろうね」

「そうか……でも、俺は『求心水』に頼らなくても周囲から頼られるようになる。それくらいやれなきゃいけないからな」

「ああ、頑張ってくれたまえ。では、ボク達はこれで失礼するよ。彼らに会えると思えた時には、『求心水』に頼むと良い。飲めばきっと彼らのところへ案内してくれるからね」

「わかった。ありがとう、三人とも。またな」

「……ああ、またな」

「またね」


 そして三人が赤い渦の中へ消えていくと、少年は決意を固めた様子で頷く。


「……よし、やろう。どんなに辛くたってそれが俺のやるべき事なんだからな」


 独り言ちた後、少年は再び机に向かい、真剣な表情でノートを広げ、まっすぐな目をしながらペンを手に取った。

いかがでしたでしょうか。

今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

それでは、また次回。

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