第72話 求心水 中編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「……さて、そろそろ行くか」
よく晴れたある日の朝、少年は通学用の鞄を持って家を出ると、学校へ向けてゆっくり歩き始めた。そうして歩く事数分、前方からセーラー服姿の少女と学生服姿の少年、そして紫色のパーカーに緑色のスカートの少女が楽しそうに話しながら歩いてきた。
「それで、ボスさん達のおかげでどうにかなったわけだね」
「そうか……それじゃあ今度お礼をしないといけないな」
「そうだね。でも、こうしてお姉ちゃんとまた一緒に学校に行けたり楽しく話せたり出来てよかったよ」
「二人には心配をかけちゃったからね。まだまだ心の整理が出来たわけじゃないけど、少しずつ変われるように頑張るよ」
「ああ、わかった。俺達も気長に待ちながら何か出来そうな事があったら手伝うよ」
「私もそうする。お姉ちゃん達とはこれからも一緒にいたいからね」
「……うん、ありがとう。二人とも」
会話をしながら三人がすれ違っていくと、少年はその後ろ姿をしばらく見つめていたが、三人の姿が見えなくなると同時に顔を前方へと戻した。
「……なんかさっきの三人の内の二人、どこかで見た事があるような気がしたけど、まあ気のせいか。さてと、それじゃあそろそろ効果を見させてもらうか」
そう言いながら鞄の中から少年は一本のボトルを取り出し、その蓋をゆっくり開けた。
「この『求心水』を飲んだ奴は他の奴の心を惹き付けられるようになり、頼り甲斐のある奴だと思わせられるんだったな。ただ、惹き付けられる奴は善悪関係ない上に飲むなら一日一本が限度なんて言ってたが、力の強さ自体がどれ程かわからないし、まずは試してみるか」
少年はボトルに口をつけると、そのまま一気に飲み干し、ボトルの蓋を閉めた。そうして再び歩き始めると、すれ違った人々の視線が少年に向き始め、少年はその様子を愉快そうに見ていた。
「早速効果が出たみたいだな。後は声でもかけられたら良いんだけど……」
少年が少しにやつきながら歩いていた時、横道から出てきた少女が突然転び、手に持っていた鞄から荷物が飛び出した。
「あっ……は、早く拾わないと……!」
少女は慌てて拾い始めたが、周囲にいる人々は少女に声をかけずに通りすぎながら少年に視線を向けるだけであり、少年はニヤリと笑ってから少女に近づいた。
「大丈夫か? ほら、ここにも落ちてるぞ」
「え……あ、すみません……」
「良いって……よし、これで全部だな」
「はい。あ、あの……本当にありがとうございました。貴方って、その……良い人なんですね」
頬を軽く赤く染めながら少女が上目遣いで言うと、少年はその姿を見ながらニタリと笑ったが、すぐに微笑みながら首を横に振った。
「困ってたら助けるのは当然だ。そうだ……せっかくだし、一緒に学校まで行こうぜ。制服的に同じとこみたいだしな」
「あ、本当ですね。えっと……それじゃあお願いします」
「ああ」
そして少女と共に歩く中、少年は周囲や少女からの視線を感じてにやにやと笑いながら歩き始めた。
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それでは、また次回。




