第71話 ライフバッテリー 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「……はあ、今日もすごく疲れたなぁ」
頭上に綺麗な夕焼け空が広がり、帰宅する人々の波があらゆるところに現れる夕方頃、ある会社の前でスーツ姿の男性が俯きながら独り言ちていると、それを聞いていた青色のチョーカーをつけた人の良さそうな顔つきの男性はクスリと笑う。
「まあ、疲れたって言えるのは頑張ってる証拠だし、そこは自分を褒めても良いんじゃないかな?」
「それはそうだけどさ……けど、お前の方が疲れてそうじゃないか? 社長の秘書やりながら事務の仕事もやって、娘さんのために朝ごはんや弁当も作ってだろ? 結婚前提に付き合ってる人がいるとはいえ、そこまでやってたら倒れるんじゃないか?」
「こんなの前の仕事に比べたらへっちゃらだよ。それに、守りたい人がいるからこそ俺は頑張れてるんだ。娘や恋人もそうだけど、ボスや他のみんなだってそう。だから、これくらいでへこたれてなんていられないさ」
「……お前は強いな。でも、俺はそこまで頑張れないよ。はあ……元気を貯めておいてそれを好きな時に補給出来たら良いのになぁ」
スーツ姿の男性が呟くように言っていたその時だった。
「どうも、お兄さん達」
「え……?」
「……ああ、誰かと思ったら君か」
『バインドチョーカー』をつけた男性が微笑んでいると、セーラー服姿の少女は二人に近づいてからにこりと笑った。
「お疲れ様です、『リモートガン』のお兄さん」
「ああ、お疲れ様。そういえば……今日は助手だっていう兄妹とは一緒じゃないんだね?」
「あー……まあはい、そういう日もありますよ。ところでお隣のお兄さん、何か悩みがあるようでしたけど……」
「え……たしかに悩みというかこうなったら良いなっていう物はあるけど、君はいったい……?」
「私は道具と人間の橋渡しをしている者です。因みに、こっちのお兄さんや娘さん、ボスさんとも知り合いですよ」
「俺達、何かとこの子達には縁があるんだよ。それで、コイツの悩みなんだけど、元気を貯めておいてそれを好きな時に補給したいみたいなんだ」
「つまり、元気を持ち歩きたいわけですか。それなら、ちょうど良さそうな子がいますよ」
『繋ぎ手』は肩から掛けていたバッグに手を入れると、中から小さな黄色のモバイルバッテリーを取り出した。
「モバイルバッテリー……?」
「この子は『ライフバッテリー』という名前で、自分の元気が有り余ってるなと思った時に貯めたいって思いながらこの子を握ると、握り続けている間はその元気がこの子の中に貯まっていき、逆に元気ないなって思った時には貰いたいって思いながらこの子を握れば欲しい分だけ貯めていた元気を補給出来るんですよ」
「へえ、また中々便利そうな道具だな。因みに、貯めたり貰ったりするのは持ち主だけなのかな?」
「いえ、誰でも貯められますし誰でも貰えますよ。だから、自分の有り余っている元気を他の人にあげる事も出来ますよ」
「そんな事も出来るのか……」
「はい。という事で、この子はお兄さんにプレゼントします。大切にしてあげて下さいね?」
そう言いながら『繋ぎ手』が『ライフバッテリー』を渡そうとすると、スーツ姿の男性は驚いた様子を見せた。
「え……そんなすごい物を貰ってもいいのか?」
「はい、この子は店頭に並べられなかったり試作品だから渡しても良いって言われたりしてる子なので、遠慮なく貰っちゃってください」
「そういう事なら……どうもありがとう」
「どういたしまして。因みに、これといった注意点はないですけど、元気を貯めすぎたら今度は自分が元気じゃなくなったり体調を崩したりするのでそれは気をつけてくださいね」
「まあ、有り余っている元気を貯める物みたいだしな」
「そういう事です。それじゃあ私はそろそろ失礼しますね。お兄さん、その子大切にしてあげて下さいね」
「ああ、わかった」
「お店の皆にもよろしく伝えてくれ」
「わかりました」
笑いながら『繋ぎ手』が答え、そのまま歩き去っていくと、『バインドチョーカー』をつけた男性はその姿を見ながらクスリと笑った。
「相変わらず元気な子だな」
「たしかに。けど、こんな変わった道具を持ってるわけだし、その店っていうのも珍しい物ばかりなのかな」
「まあな。『不可思議道具店』っていう店名だし、俺が知ってる限りでも扱ってる他の道具達も中々不思議な物ばかりだ。中には使用上の注意点がある物もあるけど、それさえ守れば基本的に自分の人生を大きく変えるきっかけになるはずだ」
「そっか……まあ、社長も知り合いなら、明日にでも社長にこれを見せてみようかな」
「それが良いかもな。さて……それじゃあ俺達も帰るか。ウチで待ってる人達がいるからな」
「だな」
スーツ姿の男性が答えた後、二人は並んで話をしながらゆっくりと歩き始めた。
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それでは、また次回。




