第70話 ジャッジメントネックレス 後編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「こう言ったら自慢に聞こえちゃうかもしれないけど、『繋ぎ手』として生きる前の私は地方のお金持ちの家の子だったんだ。元々、私のお家自体が昔から商売をしているような結構名のあるところで、買い与えられていた物も高級なのが多かったし、昔から付き合いがある家の子とは許嫁の関係でもあったの」
「いわゆる旧家って奴か。それにしても……許嫁なんて俺達にはまったく縁が無さそうな話だな。正直、勝手に将来の相手を決められて嫌な気持ちにはならなかったのか?」
「それはなったよ。それに、その子っていうのも自分の家の自慢ばかりするような子で、ウチは由緒正しい家でその辺の平民とは違うんだとか今日はお手伝いさんに立場の差を教えてやったとか家がお金持ちな事をまるで自分の手柄か何かと勘違いしてる感じの嫌な子だったから嫌いだった。
生活自体も結構窮屈で、礼儀作法をしっかりとしなきゃないのはわかるけど、少し間違っただけでギャーギャー騒がれるし、そんなんじゃ家の名前に泥を塗るぞなんて言われるしで自由な生き方の方が好きな私にはあの家は会わなかったよ」
「そういうお家だとしてもなんだかお姉ちゃんが可哀想だな……」
「ありがとう、妹ちゃん。だけど、私は生まれつき道具と会話が出来る能力を持っていたから、辛かったり寂しかったりしたら家にあった道具とお話しして色々聞いたり慰めてもらったりしてた。だから、どうにか頑張れてたんだけど……ある出来事がきっかけで今の私を作り上げる事になるの。
七歳くらいになったある日の夜、私はお務めがあるって言われて渋々家の奥にある部屋まで行った。その部屋は良いって言われるまで入るなって言われてたとこだったから、少し気にはなってたんだけど、そこに入ったら私は目を疑ったよ」
「……何があったんだ?」
「そこには私の両親と許嫁の子、それとその子の両親がいたんだけど、不思議な事に許嫁の子は服を何も着てなくて男の子の裸を初めて見た事で私が恥ずかしがってると、今からその部屋で自分達が見ている中でその子とまぐわえって言われたの」
その言葉に『導き手』と『探し手』が揃って顔を見合わせると、当時の心境を思い出したのか辛さと悲しさに満ちた様子で声を震わせる。
「……二人も意味はわかってるようだけど、私は七歳の内から許嫁の夜伽を強要されたの。私も意味はわかってたから、あり得ないって思いながらどうしてって両親に訊いたよ。そしたら、私は双方の家がこれからも共に栄えていくための子供を生む必要があるから、早い内に男の人との行為に慣れて女として身体も魅力的にしていき、将来の旦那さんになる相手が好きな時に求めてきても応えられて、相手をちゃんと悦ばせられるようにするべきだって言われたの。
それを聞いた瞬間、ああ私は自分達の娘というよりは家の存続のための道具として見られてたんだなって思って、その事を悲しく思うと同時に沸々と怒りが沸いてきたよ。
そして色々準備万端そうな許嫁の子が待ちきれない様子で私にいやらしい視線を向けながら歩いてきた時、私の中で『救い手』が生まれ、私は憎しみと怒りを込めてそこにいた全員の感情を操った。
その結果、部屋の中は阿鼻叫喚の地獄絵図といっても差し支えない状態になったよ。双方の父親は烈火のごとく怒ってお互いを殺しそうになるまで傷つけあったし、許嫁の子は悪意全開で双方の母親を殴り付けたり笑いながら私の代わりに自分の慰み者として扱ったりして、その光景に恐怖した私はすぐに部屋からも家からも出た。
そしたら私の様子を見守っていた神様が現れて、一時的に自分の領域に私を避難させてくれたの。その後は二人と一緒でかつての自分を捨てる事にして、同じようにかつての自分を捨ててこの家に住んでいた御師匠様と引き合わせてもらって、『救い手』の力を封印した上で二人の能力を組み合わせる事でこの『不可思議道具店』を始める事にしたの」
『繋ぎ手』の話が終わり、店内がシンと静まり返る中、『導き手』は少し聞きづらそうな様子で『繋ぎ手』に話しかけた。
「……それで、本来のお前の両親と許嫁一家はどうなったんだ?」
「神様が後処理をしてくれたけど、結構私の能力の影響が強かったみたいで、両家の父親同士はいがみ合ってるようだし、許嫁だった子は自分の母親と私の母親だった人の二人とは今でも男女の中になっていて、お腹の中には子供もいるようだよ。
まあ、私からしたらこれは当然の結果だと思うし、やった事に対して後悔はしてない。するわけがないんだから」
「……たしかにそんな事があったら、恋人なんて欲しくなくなるし人間に対して不信感しかなくなるかも」
「だから、私は誰の事も心からは好きにならないしなれないの。好き、という感情を能力を使ってしっかりと封じ込めてるからね」
「……『繋ぎ手』はそれで良いのか?」
「良いんだよ、それで。私は御師匠様や妹ちゃん、お兄さんに神様達だけがいればそれで良いの。まあ、さっきも言ったようにお兄さんは異性の中では一番のお気に入りだけど、それでも恋愛的な意味で好きにはなれない。お兄さんだって別に私をそういう目では見てないし、そんな事に時間を使ってる暇はないって思うでしょ? それで良いんだよ」
『繋ぎ手』が笑いながら言っていたその時だった。
「……嘘つき」
突然『探し手』がポツリと呟くと、『繋ぎ手』は驚いた様子で『探し手』に視線を向け、『探し手』は真剣な表情でまっすぐに『繋ぎ手』を見つめた。
「お姉ちゃんだって本当は変わりたいんでしょ? 自分から誰かを好きになって恋をして、その人と幸せな毎日を送りたい。そう思ってるから、『救い手』さんが生まれてきたんだと私は思うよ」
「……『ジャッジメントネックレス』の力はすごいんだね。まったく……『救い手』は本当に厄介な道具を作ってくれたもんだよ」
「ううん、それがなくてもわかるよ。だって、お兄ちゃんと話したり一緒にお買い物したりしてる時のお姉ちゃんはすごく楽しそうだし、『ラブレンズ』の時もはぐらかされたけどお兄ちゃんの事はそういう事をする相手として嫌だとは言ってなかった。
『救い手』さんがお姉ちゃんの体から抜け出て、私達のコピーを創ったりお兄ちゃんにお姉ちゃんの事を託したり私に『ジャッジメントネックレス』をくれたのは全部お姉ちゃんの事を“救いたい”からなんだよ。もっとも、その過程でやってる事は褒められた事じゃないけどね」
「…………」
「『繋ぎ手』の気持ちはわかるし、俺だって同じ立場だったそう考えると思う。でも、少しでもまた誰かを好きになりたいって思ってるなら、俺はお前の助けになりたい。お前が『アルケミーボトル』と出会わせてくれたから、俺も妹もこうして元気に生きていられるからな」
兄妹の話を聞き、『繋ぎ手』はしばらく黙っていたが、不意に店奥へ向かって歩き始め、それを見た兄妹が『繋ぎ手』に声をかけようとした。
しかし『創り手』はそれを手で制しながら静かに首を横に振り、三人の視線を背に『繋ぎ手』は目からポロポロと涙を流しながら哀しさと苦しさが入り交じったような表情で店奥へと消えていった。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




