第69話 気引紅 中編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「さてと……そろそろ会社に行こうかな」
どんよりとした曇り空の朝、女性は通勤用のスーツに着替え、洗面台の鏡の前で身嗜みを整えていた。
「髪……よし、肌の艶……よし、歯の白さも顔色もよし……うん、これでバッチリ。男からモテたいならこれくらいやって当然ではあるけど、流石にそろそろ面倒にはなってきたかな。ここまでやってもこっちの努力の成果は見ずにただただ顔と身体しか見ない男もいるし……あ、そうだ。そういえば、昨日の帰り道で面白い物を手に入れたし、今日の出勤から試してみようかな」
そう言いながら女性はスーツのポケットを探ると、中から一本の口紅を取り出す。
「……あったあった。たしか『気引紅』っていう名前で、これをつけてるだけで男女関係なく気を引けるっていう物だったよね。ただ、つけてる間はキスをしたらダメって言ってたけど……まあ、キスの前には拭けば良いし、問題ないか」
『気引紅』を見ながら笑った後、女性は蓋を開けて鏡を見ながら『気引紅』をつけた。すると、女性の唇はつける前よりも血色もよく潤って見え、それを見た女性は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「へえ、結構良い感じだし、これなら毎日つけていっても良いかもね。うん、それじゃあそろそろ行きますか」
鏡に映る自身の姿に満足そうに頷いてから女性は通勤用の鞄を持ち、玄関を出て外へと出た。コツコツというヒールの音を響かせながら道を歩いていた時、道行く人々は一部を除いて誰もが女性に視線を向けており、特にその中にいた男性達は揃って熱っぽい視線を向けていたため、女性はそれを感じながら満足げに笑った。
「ふふっ、早速効果出てるじゃん。まあ、気にしてこないのは、もう心に決めた相手がいる人なんだろうけど、別に誰かの浮気相手になりたいわけじゃないし、それは別に良いかな」
独り言ちる女性には次々と視線が向けられ、中には女性に声をかけようか迷う男性や少しいやらしい視線を向ける男性もいたが、それすらも女性は楽しみながら歩いていた。
そうして歩く事数分、着いた駅でも乗った電車の車内でも女性は周囲からの視線を浴び続けており、表情には出さなかったものの、女性は嬉しさで笑い出したいのを必死になって堪えていた。
「……ああ、たまらない。誰もが私を見てうっとりとして憧れを抱いて、時には羨んで……こんなにも良い気分になった事なんて今までになかった。ふふ、会社に着くのが楽しみで仕方ないなぁ……!」
声を潜めていたものの、嬉しさは隠しきれておらず、女性は視線を浴びる気持ちよさを味わいながら会社の最寄り駅に向かう電車に揺られ続けた。
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それでは、また次回。




