第69話 気引紅 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「はあ……今日も楽しかったなぁ……」
空が綺麗なオレンジ色に染まり、夕陽があらゆる物を輝かせる夕方頃、一人のスーツ姿の女性が満足げな様子で歩いていた。
「ほんと、男って簡単だよね。私のこの可愛さを使ってちょっと気があるような態度を取ったりドジっ子を演じてやればすぐに優しくなるんだもん。可愛い分、人生イージーモードなのは本当に得だよ。
ただ……最近、先輩の一人が妙に他の男性社員からの人気を得てるんだよね。香水でもつけてるのかいつも良い香りさせてるし、同期の子とは恋人同士になったって噂聞くし、本当につまんない。あーあ、もっと色々な人を私にメロメロにさせる方法ってないのかなぁ」
女性が不満そうな様子で独り言ちていたその時だった。
「どうも、お姉さん。こんばんは」
「え……?」
突然聞こえてきた声に女性が驚きながら立ち止まり、背後を振り返ると、そこには黒いパーカーのフードで顔を隠した人物と紫色のパーカーに緑色のスカート姿の少女がいた。
「……なんだ、女の子か。男以外には興味ないんだけどなぁ……」
「……そんなのこっちだって一緒だよ。お姉ちゃんが用がなければ、貴女みたいなろくでなしには話しかけてないよ」
「なっ……もう一度言ってみなさいよ、このガキンチョ!」
コピーの妹の言葉に女性が怒りを露にする中、『救い手』はその様子を見てクスクス笑う。
「ウチの子が失礼したね。ところで、お姉さん。なんだか不満そうな様子だったけど、何かあったのかな?」
「……別に。ただ、ウチの職場で男性社員からの人気を得てて、同期の子と恋人同士になった人がいるみたいだから、その人なんかよりも私の方が良いって事を証明したいだけ」
「なるほど。それなら彼女の力を借りるのが一番かな」
『救い手』はリュックサックの中に手を入れると、一本の口紅を取り出した。
「口紅……? それでどうにかなるっていうの?」
「ボク達は恵まれない人の救済者とその助手だからね。扱う道具も一般的じゃないのさ。これは『気引紅』という名前で、この口紅をつけた人は男女関係なく人の気を引けるようになるんだ。ただ、既に心に決めた相手がいる人には効かないけどね」
「同性にも効くのか……まあ、私の味方を増やせるかもって考えたら良いのかもね」
「ふふ、考え方次第、という事だね。そしてこれは貴女にプレゼントするよ。大切にしてあげてくれ」
そう言いながら『救い手』が『気引紅』を渡そうとすると、女性は少し驚いた様子を見せた。
「え、良いの?」
「ああ。遠慮せずにもらってくれて構わないよ」
「ふーん……まあ、それなら貰っとこうかな。どうも、ありがとう」
「どういたしまして。ただ、その『気引紅』には注意点があるからそこは気を付けてくれ」
「注意点……?」
「そう。それをつけている間、絶対に誰ともキスをしてはいけないよ。ワイシャツみたいな衣服などにするなら良いけど、生物にキスをしてはいけない。やってしまったら大変な事になるからね」
「つけてる間はキスなし……まあ、それくらいなら問題ないでしょ。わかった」
「ふふ、ありがとう。では、ボク達はそろそろ失礼するよ。行こうか、妹ちゃん」
「うん、お姉ちゃん」
そうして『救い手』達が去っていくと、女性は手の中にある『気引紅』に視線を落とした。
「他人の気を引ける口紅かぁ……本当かはわからないけど、使ってる口紅がそろそろ無くなるかなと思ってたし、ちょうど良いかもね」
そして『気引紅』をポケットにしまった後、女性は妖しい笑みを浮かべながらゆっくりと自宅へ向けて歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




