第68話 フレグランスバスソルト 後編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「ふぅ……ほんと、良い夜ね」
星空に青白い月が浮かび、辺りがシンと静まり返った夜、女性は毛布を胸元まで引き寄せながら窓の向こうに見える月を眺めていた。
毛布の中にある身体は何も身に纏っておらず、女性は隣ですやすやと眠る裸の男性に視線を移すと、頭を撫でながら優しい笑みを浮かべた。
「……普段から根性とスタミナはあると思っていたけど、まさかそれをこんな形で実感するとはね。経験はないって言ってたのにそれでも頑張ってくれたわけだし、またこういう機会を持っても良いのかもしれない。さて、少し身体もベタつくし、シャワーでも浴びてこようかしら」
そう言って女性はベッドから出ると、そのまま浴室へ向かって歩き出し、ドアを開けて浴室へと入った。その瞬間、ボディソープやリンスインシャンプーなどと一緒に置かれている『フレグランスバスソルト』に目がいったが女性は軽く目をそらすと、シャワーヘッドから出る熱めのシャワーを気持ち良さそうに浴び、備え付けのバスタオルを身体に巻いて浴室から出た。
すると、男性しかいなかったはずの室内にはいつの間にか『救い手』とコピーの兄がおり、その姿に女性が驚く中、『救い手』はフードの奥でにこりと笑う。
「やあ、お姉さん。おじゃましてるよ」
「あなた達は……どうしてここにいるの?」
「ボク達には色々なところに入る事が出来る道具があるからね。それに、どうやら少し悪意や邪念を高めていたのに『フレグランスバスソルト』の恩恵を受けて色々な人からの寵愛を受けようとしなかったから、少し興味が湧いて会いに来たんだ」
「……たしかに『フレグランスバスソルト』の力はすごかったし、この力で私は後輩の男の子と一夜を共に出来てる。正直、もっと色々な男を魅了出来るだろうから、やってみても良いかなと思った時もあるわ。
だけど、私は別にみんなからちやほやされて喜んでいるあの子みたいになりたいわけじゃないの。こうして疲れもストレスも無くなって、自分の美容や私だけを見てくれるたった一人に意識を向けられる、それだけで十分なのよ。これだけで私は救われたと言えるわね」
「……なるほど。救われたのならよかったです」
「ところで、『フレグランスバスソルト』の注意点を無視するとどうなるの? それを無視しないようにって思ってる内に熱いお風呂が好きになったから、これからも無視するつもりはないけど……」
女性からの問いかけにコピーの兄が静かに答える。
「どうやら急激に身体を冷やされて凍りつき、そのまま凍死してしまうようです」
「それは怖いわね……安らぎはほしいけど、そういう永遠の安らぎは求めてないわ」
「そうだろうね。では、そろそろボク達はお暇させてもらうよ。真夜中のバスタオル一枚だけの女性というのはウチの助手君には刺激が強すぎるかもしれないしね」
「……俺はコピー体だからそういうのに興味はないって。それじゃあ失礼します」
「うん、気をつけて帰ってね」
そして、出現させた赤い渦の中へ『救い手』達が消えていくと、女性はベッドへ近づきながらバスタオルをはずし、そのまま毛布にくるまりながら眠る男性に抱きついた。
「……うん、あったかい。『フレグランスバスソルト』の力とはいえ、こういう関係になったわけだし、君とはもっと熱々な関係になりたいかな……なんてね」
女性は抱きついたままでクスリと笑うと、安心しきった顔で目を閉じ、そのままゆっくりと眠り始めた。
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それでは、また次回。




