第66話 運廻扇 後編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「ふんふんふふ~ん♪ はあ……今日もすごく良い日だったなぁ~」
夜空に幾つもの星が瞬く夜、入浴を終えた少女はタオルで髪を拭きながら自室へと向かい、中へは入るや否やそのままベッドの上に寝転んだ。
「今日も学校一のイケメンだって言われてる男子から声をかけられて一緒にお昼を食べたし、学校帰りにやったくじ引きでは二等のコスメセットが当たって、夕飯も私が好きな物だった。
こんなに良い事ばかりが起きるなんて少し前の私は全然思ってなかったなぁ。まあこれも全部『運廻扇』があるからなんだけどね」
そう言いながら少女はベッドから体を起こして立ち上がると、勉強机へと近づいてその上に置かれた『運廻扇』を見つめた。
「起きてすぐに悪運を吹き飛ばしてるから、その日はずっと悪運にもまとわりつかれないし、良い事ばかりの日々でストレスも溜まらないから、心にも余裕が出来る。もう『運廻扇』無しの生活には戻れないかな……」
そんな事を独り言ちていたその時、髪に宿っていた雫がポツリと『運廻扇』へと落ち、それを見た少女はしまったという顔をした。
「まだ水滴を拭ききれてなかったのか……早く『運廻扇』を拭かないと壊れちゃうよ。えっと、ティッシュティッシュっと……」
少女が少し焦りながらティッシュを探していると、『運廻扇』は赤い光を放ち、独りでに羽を逆回転させ始めた。
「えっ……スイッチを入れてないのにどうして……!? というか、回転が逆になってるし、これって一体……」
突然の事に少女が困惑していると、部屋のあちこちに少女が吹き飛ばしてきた悪運が現れ、そのまま次々と少女にまとわりつき出し、まとわりつく悪運で少女の姿は覆い尽くされた。
「な、なに……? もしかして、さっきので注意点を無視した事になって、悪運が全部戻ってきたって事……!? そ、それじゃあこの後に本当に良くない事が──」
その少女の声は突然倒れてきたタンスによって遮られ、タンスの下敷きになった少女の頭からはドクドクと血が流れだし、タンスが倒れた音で駆けつけた両親は慌てながら救急車を呼んだりタンスの下から少女を助け出そうとしていた。
そんな出来事が起きている家の外では『運廻扇』を持った『繋ぎ手』と助手の少年が立っており、『運廻扇』についた水滴を拭き取りながら『繋ぎ手』は哀しそうな表情を浮かべた。
「……あの子はダメだったみたいだね」
「そうだな。それにしても、自分が吹き飛ばしてきた悪運が戻ってくるなんてなんか嫌だな」
「まあ、人の運なんて良い物も悪い物もめぐってくる量は決まってるらしいし、その前にだいぶ良い思いをしていればその後は嫌な思いもするもんだよ。お兄さんだってそうじゃない?」
「……そうだな。父さん達と一緒だった頃は幸せだったけど、亡くなってあの家に引き取られてからは苦しくて辛かった。でも、今はまた平穏な生活を送れてるし、その後にはまた不幸な目に遭うのかな」
「それはお兄さんの日頃の行いによるんじゃないかな。それじゃあそろそろ帰ろっか」
「ああ」
助手の少年が答えた後、二人は出現させた青い渦の中へと入っていき、救急車のサイレンが鳴り響く中で静かに姿を消した。
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それでは、また次回。




