第66話 運廻扇 中編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
ある晴れた日の朝、ベッドに寝ていた寝巻き姿の少女はゆっくりと目を開けると、起こした体をグーっと上に伸ばした。
「んっ……朝かぁ、今日こそ良い事があってほしいって思うけど、どうなるかなぁ……」
少女は浮かない表情をしていたが、ふと何かを思い出したようにポンと両手を打ち鳴らすと、ベッドから出て勉強机へと近づいた。
机の上には参考書やノート、筆記用具などが置かれていたが、少女は端っこに置かれていた金色の小型の扇風機を手に取った。
「そうだ……私にはこれがあるんだった。これは『運廻扇』という名前で、スイッチを入れてからこれを誰かに向けると、その人にまとわりついた悪運を吹き飛ばして、その代わりに良い運を引き寄せてくれるって言ってたよね。
どこまで効果があるかとか私にそもそも効果があるかはわからないけど、とりあえず試すだけ試してみよう。えっと、スイッチは……あ、あった」
少女が後ろのスイッチを入れると、『運廻扇』の羽は静かに回りだし、少女はその様子をボーッと眺めていたが、ふと自分の体に目をやると、驚いた様子で声を上げた。
「えっ……こ、このまとわりついてる黒いモヤモヤみたいなのってなに……? もしかして、これが悪運……?」
体にまとわりつく悪運に恐怖を感じた後、少女は喉をゴクリと鳴らしてから『運廻扇』を自分へ向けた。すると、『運廻扇』から送られる風は次々と少女の悪運を吹き飛ばしていき、吹き飛ばされた悪運は静かに消えていった。
「……これで良いんだよね? でも、あんなのがまとわりついてたらたしかに嫌な事ばかり起こってもしょうがない気がする……」
まとわりついていた悪運を思い出して少女が体を震わせていたその時、部屋のドアがノックされると、ドアを開けて母親が中へと入ってくる。
「あら、おはよう。なんだか顔色がいつもより良いようだけど、昨日はよく眠れたの?」
「え、いつも通りだったけど……そんなに顔色がよく見えるの?」
「ええ。ここ最近、顔色も少し青白かったような気がするし、ちょっと元気もなかったように見えてたから心配してたのよ」
「お母さん……」
「まあ、その様子なら大丈夫みたいね。それじゃあ朝ごはんはもう出来てるから、そろそろ起きてきなさいね」
「あ、うん」
少女の返事を聞いて母親が部屋から出ていくと、少女は手に持った『運廻扇』を見ながら嬉しそうに微笑んだ。
「……早速効果は出てるみたい。もしかしたらここから色々な良い事が起きるかもしれないし、それを楽しみにしてみようかな。よし……それじゃあまずは朝ごはんを食べに行こうっと」
弾んだ声で独り言ち、『運廻扇』を再び勉強机へと置いた後、少女は軽くなった足取りで歩き始めた。
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それでは、また次回。




