第66話 運廻扇 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「……あーあ、今日も一日良くない日で終わったなぁ……」
オレンジ色に染まった空をカラスが鳴きながら飛び、少しずつ辺りが暗くなり始めた夕方頃、一人の少女がため息をつきながらとぼとぼと帰路に着いていた。
「なんでこう嫌な事ばかり起きるんだろ? 別に黒猫が目の前を通るみたいな事は起きてないのに、ここのところずっと嫌な事ばかりでもう嫌になっちゃう……はあ、何か良い方法は無いかなぁ」
少女が再びため息をついていたその時だった。
「ねえ、そこの貴女。ちょっと良いかな?」
「え……?」
突然背後から聞こえてきた声に少女が立ち止まり、そのままゆっくりと背後を向くと、そこにはニコニコと笑うセーラー服姿の少女と真剣な表情を浮かべる学生服姿の少年の姿があった。
「え……き、君達は?」
「私達は道具と人間の橋渡し役とその助手君だよ。ところで、なんだか落ち込んでいたようだけど……何かあったの?」
「あ……うん、実はここ最近嫌な事ばかり続いててね。別に何かしたわけじゃないのにそうなるもんだから、いい加減嫌になってきちゃって……」
「……なるほど。それじゃあ運が向いてくるようになればいいわけか。バッグの中を見せてくれるか、『繋ぎ手』」
「うん、いいよ」
『繋ぎ手』が頷きながら答えた後、『導き手』はバッグの中に手を入れ、小さな金色の扇風機を取り出した。
「それって……夏とかにバッグに入れておくような小型扇風機だよね?」
「うん。この子は『運廻扇』っていう名前で、スイッチを入れてから誰かに向けて風を送ると、その人に纏わりついてる悪運が飛ばされて、その代わりに良い運が巡って来るようになるんだ」
「悪運を吹き飛ばして良い運が巡ってくる扇風機……良いなぁ、そういう物があれば私も良い事が起きるようになるのかなぁ……」
「ふふ、巡ってくるよ。という事で、これは貴女にプレゼントするよ。大切にしてあげてね」
そう言いながら『繋ぎ手』が『運廻扇』を手渡そうとすると、少女は驚きながら両手の手のひらを見せて横に振る。
「えっ……い、いいよ。流石に無料で貰うなんて申し訳ないし……」
「遠慮はいらないよ。この子は店頭に並べられなかったり試作品だから渡しても良いって言われたりした物だからね」
「そ、そうなんだ……それなら貰おうかな。どうもありがとう」
「どういたしまして」
「それで、『繋ぎ手』。この『運廻扇』には注意点ってあるのか?」
「うん、あるよ。悪運を吹き飛ばした時にその方向に誰かがいたら、その人に悪運が付いちゃうっていうのもあるけど、この子は濡れるのがすごく嫌いだから、濡れた手で触ったり水の中に落としたりしないでほしいの。もしそんな事をしたら大変な事になるからね」
「大変な事……うん、わかった。気を付けるね」
少女が答えると、『繋ぎ手』は満足そうに頷く。
「それじゃあ私達はそろそろ帰るね。その子、大切にしてあげてね」
「うん。それじゃあね」
「ああ」
そして『繋ぎ手』達が去っていくと、少女は手の中にある『運廻扇』に視線を落とす。
「運を入れ替えてくれる扇風機……どこまでの効果があるかわからないけど、とりあえず力を借りてみようかな」
『運廻扇』を夕日に翳しながら独り言ちた後、少女は『運廻扇』をポケットに入れ、ゆっくりと歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。




