幕間
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
『繋ぎ手』と助手の妹が『不可思議道具店』の店先で『幸呼笛』に導かれた少女と出会っていた頃、助手の兄は真剣な表情で一人街中を歩いていた。
その足取りはしっかりしていたが、どこか重く感じられ、行き先は決まっていても本心はあまり行きたくないと思っているのが明らかにわかる程だった。
そしてとある場所の前で足を止め、入り口のドアを開けて中へ入ると、入り口のドアベルがカランカランと鳴り、カウンターにいた男性とカウンター席に座っていた三人の男女が揃って視線を向けた。
「いらっしゃ……おや、遂にこの時が来てしまったか」
「……お前、どうしてここに……」
「ふふ、やはり予想くらいはついていたようだね。歓迎するよ、ウチの助手君の本体君」
『救い手』が不敵な笑みを浮かべながら言うと、助手の兄はゆっくりと『救い手』に近づき、それを見たコピーの兄妹がスッと体を浮かせたが、『救い手』はそれを手で制し、助手の兄は『救い手』の目の前で足を止める。
「……やっぱりここにいたんだな。『繋ぎ手』の能力の具現体」
「うん、そうだよ。だけど、ボクは『救い手』と名乗っているから、そう呼んでもらえると助かるかな」
「『救い手』……?」
「そうさ。彼女が道具と人間の橋渡し役だと名乗るようにボクも道具との縁があった人間、“縁者”達の恵まれない現状を道具達によって救う活動をしているからね。
もっとも、ボクの力で悪意と邪念を高めた上でそれに負ける事なく道具とうまくやれた人のみがちゃんとした意味で救われるのだけどね。だから、君もボクの事は『救い手』と気軽に呼んでくれたまえ。ボクも君の事は『導き手』と呼ぶから」
「俺は別に誰かを導いてるわけじゃない」
「君の能力である『道具と人間の縁の可視化』はそう言っても差し支えないと思うよ? 道具と人間を繋ぐ縁の綱を視て、その両者が出会えるように導いているわけだからね」
「…………」
「さて、こうしてボク達は再び出会えたわけだけど、今回の来訪の理由は何かな? 言っておくけれど、ボクと彼女を会わせようとしているならお断りだよ。まだボクにはやりたい事があるから、そのためにもボクはまだ消えるわけにはいかないんだ」
「……別に『繋ぎ手』と会わせたいわけじゃないし、ここをお前達の拠点にしてる事をバラす気もない」
「……へえ?」
『救い手』が意外そうな顔をすると、助手の兄は真剣な表情で静かに口を開く。
「俺はここにお前達がいるかどうかを確認したかった。ただそれだけだ。そのために俺は『ジーニアスミサンガ』の力を借りてるわけだからな。どういうわけか俺と『ジーニアスミサンガ』には縁の綱が繋がっていたしな」
「どうやらそのようだね。少し前にあげた子よりも君の方が『ジーニアスミサンガ』との縁は強い。その上、君はウチの助手君と一緒でとても妹さん思いだし、誰かを傷つける事には興味がない。良いコンビになると思うよ」
「……それはどうも。それじゃあ俺はそろそろ帰るぞ。目的自体は達成したからな」
「そうかい。ああでも、その前に……せっかく来てくれたから、一つだけ彼女について教えてあげるよ」
「『繋ぎ手』について……?」
「そうだよ。彼女、普段はとても人懐っこいし、簡単に君や君の妹さんの事を大好きなんて言えるけど、誰かを恋愛的な意味で好きになる事を嫌悪しているだろう? その理由を教えてあげようかなと思うんだ」
「それを俺に言ってお前に得があるのか?」
「ないよ。けど、『ジーニアスミサンガ』があるとはいえ、こうして一人で乗り込んできた君には敬意を払いたいし、なんだかんだで君の事は気に入ってるんだ」
「…………」
「それでは教えてあげよう。彼女が誰かを恋愛的な意味で好きになろうとしない理由を」
そう言って『救い手』は話を始めた。話の最中、その場にいた誰もが一言も話さずにそれを聞き、話を終えると、助手の兄は表情を暗くする。
「……そんな事があったのか」
「うん。それが心の奥底に今でも汚泥のように溜まっているから、彼女は誰とも恋愛をしようとしない。たとえ、誰かと男女の関係になったとしても、そこには恋心なんてのはない。それくらい彼女の中にはその出来事が残り続けているんだよ」
「……それはたしかに話せないよな」
「そうだね。だから、君に頼みたいんだ。彼女が再び誰かを好きになれるようにしてあげてほしい」
「……どうして俺なんだ? 『救い手』がやっても良いんじゃないのか?」
「ボクじゃだめだ。異性の中で一番彼女が気に入っているのが君だからね。元は同じ個体だからわかるんだ。彼女を助け出して、再び家族を作ってあげられるのは君だけだとね」
「…………」
「さて、ボクも話したい事は終わったし、ここまで来た君を捕らえるつもりもない。ウチの助手君的には君の存在を奪って本物になりたいところだろうけどね」
そう言いながら『救い手』がコピーの兄に視線を向けると、コピーの兄は首を横に振る。
「……たしかにそうだけど、今の話を聞いてすぐにでもそうしようとは思わない」
「そうだね。お兄ちゃんが本物になったら嬉しいけど、今はそのタイミングじゃないって気がするよ」
「ふふ、そうだね。では、また会おう、『導き手』。またボク達に会いに来たくなったり聞きたい事があったりしたら、遠慮なくここまできてくれ」
「……来るかはわからないけどな」
「それならそれでも良いさ。そしてこれだけは忘れないでくれ。これまで君達はあらゆる道具と人間との間に起きた出来事を見てきたかもしれないが、道具側が自分から所有者に対して危害を加える事はまずない。
あくまでも人間側の扱いの問題であり、どんなに危険な力を持つ道具でも人間側が関わり方さえ気を付ければ道具と人間はしっかりと共存出来るという事をね」
「……わかった。それじゃあな」
「うん、またね」
ドアを開けて助手の兄は店外に出ると、深くため息をつく。
「はあ……アイツ、そんな理由があったのか。それはたしかに人間側に対して冷たくもなるよな。けど、俺に本当にアイツを救えるのか? 『救い手』は俺だからこそなんて言ってたけど……」
一人呟いて空を見上げたが、助手の兄はすぐに視線を前へと向ける。
「……いや、立ち止まっててもいけない。俺と妹はアイツやオーナー、神様達に救われたんだ。だったら今度は俺がその恩返しをする番なんだ。俺にどこまでの事が出来るかわからないけど、きっとアイツのために何かしてやれる事があるはず。それを見つけてやらないとだな」
独り言ちた後、助手の兄はゆっくりと歩き出したが、その体はほんのりと白い光を放っていた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




